全量輸入のヘリウムガスを95%以上回収!希少な戦略物質のリサイクルを物材機構が推進

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厳しい入手状況

ふわりと漂うヘリウム風船。ふと手を離した隙に遠くへ飛びさった懐かしい記憶がよみがえる。だが、この光景も過去のものになるかもしれない。

世界のヘリウム供給の中核を担ってきた米国政府が、備蓄ヘリウムの民間への払い出しの継続的削減にかじを切ったことをきっかけに、世界的な需給バランスが崩れ、価格の高騰と不安定な入手状況が続いている。さらに主要プラントの一時供給停止や東アジアでの需要の高まりなど、今後も厳しい状況が予想される。

そもそも無色透明なこのガスは、天然ガスの採掘時に出る副産物だ。日本がその全てを輸入に頼っていることは想像に難くないが、産業や医療、基礎研究の分野で広く使用される非常に重要な物資であることは意外と知られていない。

国内のヘリウムガス利用の内訳は、半導体や光ファイバーの分野が上位を占め、ハイテク産業での需要が高い(図)。またヘリウムガスをマイナス269度Cで液化した液体ヘリウムは病院のMRI検査(核磁気共鳴画像法)や低温工学などの学術研究に欠かせない。

極低温物性計測

物質・材料研究機構(NIMS)においても極低温物性計測は極めて重要な研究手段であり、今後の物質・材料研究を支える基盤技術の一つである。青色ダイオードで知られる窒化ガリウムのような新しい半導体材料の基礎物性研究、リニアモーターカーやMRIなどで利用される超伝導のように極低温で発現する量子状態の応用研究、さらに今後国を挙げて進めていく「マテリアル戦略」や「量子技術イノベーション戦略」においても、液体ヘリウムを使った極低温下での物性研究、材料評価はますます重要となっていく。

ガス回収率95%

こうした研究を強力かつ継続的にバックアップしていくために、NIMSでは希少なヘリウムガスのリサイクル運用を戦略的に行っている。液体ヘリウムを使用する実験棟には、ヘリウムガス専用の高気密回収ラインを設置。ガスの純度を常時監視し、装置や保管容器との接続に低透過性チューブを利用するなど、独自の対策、工夫により、国内でもトップクラスの95%以上のガス回収率を達成している。

2019年には液化システムの一新と、ガス備蓄設備の増強に加え、液化機の各部を最適化することで再液化のエネルギー効率を大幅に改善した。今後も、最先端の物質研究、材料開発に不可欠な戦略物資としてのヘリウムガスのリサイクルを積極的に推進し、SDGsにも資する持続可能な極低温物性研究環境の実現を目指していきたい。(水曜日に掲載)

◇物質・材料研究機構(NIMS)技術開発・共用部門(低温応用ステーション)副部門長(低温応用ステーション長兼務) 今中康貴

1997年東大大学院博士号(工学)取得。同年、金属材料技術研究所(現NIMS)入所。02年英ケンブリッジ大客員研究員。11年文科省学術調査官。15年より北大連携大学院教授を併任。20年より現職。

日刊工業新聞2021年2月3日

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