「生産能力とコストで圧勝する」日本電産・永守会長、三菱重工工機買収の深慮遠謀

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日本電産の永守会長

日本電産が三菱重工業傘下の三菱重工工作機械(滋賀県栗東市)の買収を決めた。日本電産は成長事業に位置付ける電気自動車(EV)駆動モーターやロボット用減速機などの生産増強を加速している。過去の経験から、急激に立ち上がる需要対応で、ギアなどの主要部品と主要設備の内製化が不可欠とし、模索していた。歯車工作機械が強みで世界3強の一角である三菱重工工機の買収で確実に需要を捉える体制とし、競合を引き離す。(京都総局長・松中康雄、孝志勇輔、編集委員・土井俊)

高度な技術・人材獲得

日本電産が開発した駆動用EVモーター「E―Axle」

三菱重工工機は工作機械や切削工具などを手がけ、生産拠点は日本、米国、中国、インドに持ち、2020年3月期売上高が403億円、21年3月期売上高見込みは231億円。高精度・高効率な歯車加工ができる機械や、レーザー・半導体製造装置など展開し、高度な技術力と専門性の高い人材がいる。買収額は明らかにしていないが、5月ごろの買収完了を目指す。

日本電産が注力するモーターとインバーター、減速機を一体化したEV駆動用トラクションモーターシステム「E―Axle」は世界的なEV化の波を捉え、受注が急増している。

特に昨秋、中国が35年に新車販売をすべて環境対応車にする“ガソリン車全廃”を打ち出して以降、流れが加速。1月下旬、日本電産の関潤社長は、四半期当たりの引き合い件数が、直近3カ月間は従来の約2倍に増えていることを明らかにしていた。

同社は24年ごろにEV向けバッテリー価格が下がり、25年がEV普及の分水嶺(れい)になると予測。E―Axleを25年に250万台、30年に1000万台販売する計画で、開発・生産体制増強と綿密なプラン策定を急ぐ。

EV駆動モーターの世界シェア目標は30年に40―45%と設定。ハードディスク駆動装置(HDD)用モーターで世界首位を獲得した時と同様、内製化を進めて競合をしのぐ「生産能力とコストで世界で圧勝する」(永守重信会長)ため、先行して必要準備を進める。

EV駆動モーター、部品内製化で競合突き放す

日産自動車出身の関社長はEV用トラクションモーターシステムの事業戦略で、重要なポイントが四つあると明かす。一つ目が競合を突き放す商品力、二つ目と三つ目は主要部品と主要設備の内製化、四つ目が生産能力の上方弾力性という。

需要急増に対し、ボトルネックになる主要部品や主要設備を外部に頼ると、需要が立ち上がった時はすでにコストが高く、納期も長いとし、「内製化で外部よりはるかに短いリードタイム、低いコスト」(関社長)で市場を席巻する狙いだ。

日本電産のHDD用モーターでの勝利は、先読みして工作機械をはじめ、生産設備を大量発注して生産能力を飛躍的に高め、競争を制したことにある。この経験をもとに、今回の買収で内製化設備の懸念を払拭(ふっしょく)する。

永守会長はEV業界について「必ず価格競争に陥り、コモディティー(汎用品)化してしまう。どんなに素晴らしいモノを作っても、高いと売れず、使ってももらえない。ここに照準を合わせたモノづくりをきっちりとやっていく」と説明する。

三菱重工の戦略 協力関係が生んだ“譲渡”

三菱重工が三菱重工工機を譲渡するのは、事業構造を転換する一環だ。4月から始まる3カ年の新中期経営計画では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で落ち込む工作機械事業を、石炭火力発電設備や商船と同じく、テコ入れが必要な事業に位置付けていた。工作機械の顧客であり、人材面の交流も進めてきた日本電産との関係が、今回の経営判断につながった。

三菱重工は小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット」の開発に伴う巨額の損失を受け、新中計で「収益力の回復に重点を置く」(泉沢清次社長)方針を示している。23年度の事業利益見通しでは、工作機械や商船などの構造転換の効果として300億円の増益要因を見込む。

三菱重工工機は日本電産の一員となり、さらなる成長と発展を目指す(本社工場=滋賀県栗東市)

石炭火力発電設備をめぐっては、ボイラの国内生産を集約。商船は人員を22年に20年比で25%削減する。どちらも事業環境の悪化を考慮した措置だ。

三菱重工工機もコロナ禍などでの投資低迷により、21年3月期売上高は前期比で約4割減少する見込みで経営環境は厳しい。しかも他の課題事業と異なるのは、三菱重工が重視する「脱炭素化」に伴う成長性が見いだしにくい点だ。

商船では液化した二酸化炭素(CO2)を貯留場所に輸送する運搬船の実用化を計画している。グループ内にCO2の回収技術も持っており、シナジーを見込める。こうした点からも、工作機械が事業ポートフォリオから外れざるを得なかったと言えそうだ。

歯車機械3強の一角 “脅威のタッグ”警戒の声

三菱重工工機は歯車機械や大型門型機のほか、金属積層造形(AM)装置などの事業を展開。特に主力の歯車機械はホブ盤やギアシェーパー、歯車研削盤などの豊富な製品群と、内歯・外歯を問わないギア加工技術を強みに、国内で約6割のシェアを持ち、世界3強の一角を占める。

三菱重工は過去にジェイテクトと、三菱重工工機への出資について協議を進めていたが、方向性の違いなどもあり18年5月に交渉を打ち切った経緯がある。しかし、その後も大手工作機械メーカーに水面下で提携を打診するなど、事業再編を模索していたようだ。

三菱重工では今回の事業譲渡について「三菱重工工機が世界最大のモーターメーカーである日本電産の一員に組み込まれることで、さらなる成長と発展につながる」(広報部)と期待する。自動車業界で電動化の動きが加速する中、従来のメーカー視点では拾いきれていなかったユーザーのニーズを取り込んだ技術・製品開発を加速できれば、競合他社との大きな差別化にもなり得る。

工作機械業界は新型コロナの影響で落ち込んだ20年半ばを底に回復基調にある。しかし、感染収束が見込めず、悪化した米中関係が改善するかも不透明だ。大手工作機械メーカー首脳は「今後も業績が苦しいメーカーが出てくれば再建よりも再編の流れが進む可能性がある」と指摘する。

また、今回のタッグを“脅威”と捉える向きもある。中堅工作機械メーカーの関係者は「今回のように工作機械ユーザーがメーカーになるような動きが今後もあれば、メーカーとしての付加価値が薄れ、業界的に厳しくなる」と警鐘を鳴らす。

日刊工業新聞2021年2月8日

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