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渋谷の街中で広がる障がい者アート「シブヤフォント」の未来図

渋谷の街中で広がる障がい者アート「シブヤフォント」の未来図

グラフィックデザイン「シブヤフォント」を使用した案内板(東京・渋谷区役所)

東京・渋谷のスクランブル交差点に巨人が立ちはだかる絵や、色とりどりのビル群をあしらった図柄―。障がい者アートを生かしたグラフィックデザイン「シブヤフォント」が街中で広まってきた。

一度見ると忘れられないユニークな書体や模様が特徴だ。東京都渋谷区や区内の障がい者支援事業所、デザイン専門学校などが協力して事業に取り組み、データを販売。4月に一般社団法人として独立し、ビジネスを軌道に乗せることを目指している。

区が2016年に、区内の障がい者支援事業所と連携した特産品開発に着手したのが始まりだ。協力する専門学校が、デザインをデータとして販売することを提案。事業所で働く知的障がい者や精神障がい者が描く文字や絵を用いたシブヤフォントが誕生した。

専門学校の講師で、一般社団法人の共同代表を務める磯村歩さんは「モノではなくデザインであれば、多くの企業の製品やサービスに採用されやすいと考えた」という。

これまでに傘やハンカチ、マスクといった商品のデザインに採用した企業は30社以上。渋谷区役所の庁舎内の案内表示や職員の名刺にも使用され、区のPRにつながっているという。

19年度のシブヤフォント事業の売り上げは2018万円に上る。そのうち278万円を、9カ所の障がい者支援事業所に工賃として支払った。磯村さんは「法人化で、より柔軟に動けるようになる。新規の企業連携の提案は毎週のように受けており、収益や工賃の向上が期待できる」と説明する。

区の障がい者福祉課の担当者は「シブヤフォントがずっと続くために法人化を目指してきた。事業所の方々の思いや企業の協力があったためで、とても感慨深い」と語った。

作成したデザインは350種類以上で、公式ウェブサイトから誰でもダウンロード可能。個人向けは無料か500円で、商用利用は別途販売している。

日刊工業新聞2021年5月5日

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