保護ペットを救え!殺処分に立ち向かう企業たち

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近年、街で野良イヌやネコを見かける機会はめっきり減ったのではないだろうか。それもそのはずで各自治体は動物の「殺処分ゼロ」を掲げ、動物保護や譲渡を通じて、殺処分の減少に力を入れてきたからだ。
 ただ、ネコの譲渡会「ミャオ!ねこのおうち譲渡会」を主催している鵜ノ澤亜由子さんは、「保護動物は去勢や人間にあらかじめ慣れさせる必要があるなど、譲渡までかなり時間やコストがかかってくる」と語る。そのため、保護団体の活動は基本的に寄付が頼りだ。しかし、社会的な動物愛護の要請と保護団体の資金的な問題の狭間にビジネスチャンスを見出す企業がいる。

保護されるネコの年齢は様々で、若いネコほど譲渡先が多い

2020年6月に改正動物愛護法が施行された。同改正法では、ペットショップやブリーダーなどの動物取扱業者に対し、動物の生涯出産回数に制限を設けることや飼育環境の厳格化など、生体保護規制が強化された。同規制は2021年6月より適応される。
 一方で、日本で一般的なペットの入手方法であるペットショップが規制されることで、販売や繁殖を行えなくなった行き場のないペットが溢れるのではないかという懸念も浮上している。
 主に保護ペットの入手方法は2つ。自治体が引き取ったペットを直接市民に譲渡する方法と動物保護団体から譲渡を受ける方法だ。
 環境省の統計によると、行政が殺処分をする頭数は一貫して減少している。行政のペットの譲渡先の中心は保護団体だ。行政のリソースだけでは、市民への譲渡を継続できないため、保護団体と協力は欠かせない。ただ、保護団体もリソース不足であり、そこには収容能力を超過した「多重飼育崩壊」が起こる危険を常にはらんでいる。鵜ノ澤さんは「規模の小さな団体での飼育崩壊は実際は頻繁に起きている」と明かす。

人とペットの縁結び

譲渡会でのネコ。人に慣れた様子で訪れる未来の飼い主を出迎えていた

ミャオ!ねこのおうち譲渡会が隔週の日曜日に開催しているネコ譲渡会。このイベントの集客に利用しているのが、シロップ(東京都品川区)が提供するWebサイト「OMUSUBI」だ。
 OMUSUBIは2016年にサービスを開始した保護動物のマッチングサイト。同社が目指すのは、安心して譲渡された動物を飼育できる環境を作ることだ。安心を担保するため、サイトに掲載する保護団体は事前審査を設けている。また、保護団体と飼い主の双方向にやり取りをフォローする。

OMUSUBIにて募集中のイヌの検索画面。犬種などで絞り込み検索もできる

さらに同社ではOMUSUBI経由で譲渡された飼い主向けのアフターフォローサービス「OMUSUBI Family」も提供している。同社に協賛する動物病院やサロンなどを割引価格で利用できるなどの特典を用意した。
 一方、OMUSUBI単体での収益化は難しいとのこと。井島七海執行役員は「OMUSUBIは当社のほかのサービスを利用する入口にしたい」と話すように、同社が提供するドックフード「PETOKOTO FOODS」やペット情報メディア「ペトこと」へ接触機会の一つとして提供している。

井島執行役員

保護ペットの新しい受け皿、飼い主の健康増進も

アニスピホールディングス(東京都千代田区)は保護動物と暮らす障害者グループホーム「わおん/にゃおん」を運営している。同社のグループホームは保護団体などから引き受けたペットと入居者が暮らすことができる。藤田英明社長は「日々散歩をすることで、運動不足解消につながり、入居者の健康増進にもつながる」とメリットを語る。身体的な効果だけではなく、心理的な効果も見られ、アニマルセラピーの有効性を実感しているという。同社ではグループホームに入居する障害者が一般企業に就職するなど、社会参加へ目に見える形の結果も現れている。

藤田社長

同社がペットを飼うグループホームを始めたのは「個人的な趣味」(藤田社長)というように初めから収益性を求めて行ったわけではない。日本の介護施設は保険制度のもと、画一のサービスを提供することを前提としており、サービスの差別化を行うことは珍しい。藤田社長は「実のところ、保険制度の枠組みの中で事業をしていくだけで、収益を上げることができるため新しい取り組みを保険制度に先駆けて始める事業者は中々あらわれない」と語るようにイノベーションの生まれにくい仕組みを指摘する。
 ところが現在、同社にとって国の方針が追い風になっている。国は長期入院する患者を減らしながら、グループホームなどで暮らせるようにしていく方針を示している。 殺処分されるペットの保護と障害者のQOL(生活の質)を高める同社のグループホームは日本の障害者施策の先行事例になるかもしれない。

「殺処分ゼロ」、標語の危うさ

保護動物へ社会的関心が高まってきたのは自治体がここ数年「殺処分ゼロ」を結果として訴えてきたからだ。ただ、動物愛護に詳しいNPO法人「人と動物の共生センター」(岐阜県岐阜市)の奥田順之代表は「今後も殺処分ゼロを成果の指標として訴えていくことは、譲渡することが難しい動物や保護団体が保護しきれない動物の実態が把握されないなど弊害が多い」と語る。先述のように保護団体のリソースに頼った政策は今後どこかで転換していかなければならない。奥田代表は「今後はロードキル(交通事故による轢死)数などの新しい数値目標を定めて、目標にしていくべきではないだろうか」と語る。
 ペットを繁殖し、販売する動物取扱業者の「上流」への規制だけでは、余剰ペットを減らすことにはつながらない。そのためには飼い主が手放したり、ペット産業から溢れたペットを救う受け皿として保護ペットの譲渡などの取り組みのすそ野を広げていく必要があるのではないだろうか。実際、シロップの運営するOMUSUBIで掲載されているのは若いイヌ、ネコが多く、人気もある。ただ、年齢の若いイヌ、ネコは多くの世話を必要とし、フルタイムで就労している人が飼うことは難しいという。シロップの井島執行役員は「かわいいからではなく、ちゃんと飼い続けられるかを考慮して大人のイヌ、ネコも候補に入れてほしい」と呼びかける。

COMMENT

小林健人
デジタルメディア局DX編集部
記者

皆さんが口々に語っていたのは「殺処分がゼロになったからといって保護されるペットが居なくなったわけではない」ということです。本文中にも書きましたが、保護ペットを家に迎え入れるすそ野が広がっていかないとこの問題は解決されないように思います。

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