CO2排出量の半分を占める鋳造部品、頭が痛いアイシンはどうする?
世界各国で温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を巡る動きが活発だ。日本は2035年までに新車販売を全て電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)など電動車にする方針を示す。脱炭素社会に向け電動化が加速している。
事業環境が変化する中、アイシンはカーボンニュートラルに向けた長期的な計画を示した。30年度に全電動化対応商品の生産を二酸化炭素(CO2)フリーとし、50年度には生産でのカーボンニュートラル達成を目指す。
「CO2の削減などの大きな流れの中で、電動化対応に組織や商品もシフトしていく」。アイシンの駆動系部品を担う「パワートレインカンパニー」のプレジデントで副社長執行役員の山本義久はこう力を込める。電動化という変革期に主力の自動変速機(AT)の需要が減る中で成長のカギを握る領域だ。
1日にアイシン精機とAT大手のアイシン・エィ・ダブリュが経営統合し誕生したアイシン。山本は「将来の開発において両社の良い点を融合させた新しい製品などを生み出していきたい」と相乗効果に期待する。
アイシンは電動化対応商品で、駆動用モーターやギア、インバーターなどの部品を一体化した電動駆動モジュール「イーアクスル」や、変速機で「1モーターHVトランスミッション」などを手がける。イーアクスルはトヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」のEV「UX300e」などに採用されており、実績を積み重ねている。
山本は「開発にはより一層スピード感が求められている」と認識し、「デジタル変革(DX)で手順を減らすなど開発のプロセス自体も変えていく」と力を込める。
ただカーボンニュートラルのハードルは高い。「頭が痛くて」。アイシン社長の伊勢清貴はこうこぼす。アイシングループは多岐にわたる自動車部品を手がけているが、中でもCO2排出量が多いのが、鋳造部品だ。鋳造関係でアイシングループのCO2排出量の半分ほどを占めるという。それだけに再生可能エネルギーの拡大や、水素を改質してメタンを合成するメタネーションといった新たな環境技術の開発も必要になるが、「政府などが引っ張ってくれないと苦しい」と伊勢は訴える。
台風や地震の多い日本では再生可能エネルギーを確保するのが難しいとの見方もある。そうした日本で「自動車メーカーから『カーボンニュートラルの部品でないと買わないぞ』と言われると厳しい」と伊勢は吐露する一方、「(CO2削減に対応する)投資を出せるだけの力が必要だ。もっと固定費を削減し、経営効率を上げなくてはいけない」と前を向く。電動化対応での成長とCO2削減という課題に立ち向かう。(敬称略)