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構想35年、人口5400人の町が挑む人工衛星打ち上げ場計画の全貌

構想35年、人口5400人の町が挑む人工衛星打ち上げ場計画の全貌

完成予想イメージ。左に発射場、その右奥に滑走路が見える

北海道大樹町、エア・ウォーター北海道などは2023年に一部完成を目指す「北海道スペースポート(HOSPO)」の運営会社、SPACE COTANを設立した。1985年に大樹町が「宇宙のまちづくり構想」を掲げてから35年を経て具体化した。今後、各種設備の建設をスタートする一方、合計50億円以上の財源捻出などが課題になる。(札幌・市川徹)

アイヌ語のコタン(集落)から名付けられたSPACE COTANは資本金7600万円。大樹町、エア・ウォーター北海道、帯広信用金庫(北海道帯広市)、川田工業(同)、インターステラテクノロジズ(北海道大樹町)などが出資する。社長には元全日本空輸(ANA)アジア戦略室副室長で、12年からエアアジア・ジャパン最高経営責任者(CEO)を務めた小田切義憲氏が就任した。

計画によると、大樹町の多目的公園に人工衛星用ロケットの打ち上げ発射場を2カ所設ける。23年に1カ所目の「LC―1」を、25年にはさらに大型化した「LC―2」の完成を目指す。さらに同公園にある全長1000メートルの実験機着陸のための滑走路を300メートル延伸、1300メートルの滑走路を建設。ロケットの母機の離着陸に対応する全長3000メートル規模の滑走路も設ける予定だ。

事業スタートを発表した大樹町の酒森正人町長(左)と小田切義憲SPACE COTAN社長

北海道東部に位置する大樹町は、例年12月から翌年2月までは厳しい寒さが続く人口5400人の小さな町。だが、かねてロケットの打ち上げに適しているとされてきた。同町が持つ利点の一つが太平洋に面し、比較的平たんな土地が続くこと。発射したロケットが陸地に落下するリスクを最小限に抑え込むためにも有利だ。もう一点は厳冬期に冷え込むが、年間日照時間は2000時間を超え、年間降水量も1000ミリメートル前後と少なく打ち上げに適した日が多い。

大樹町ではこうした条件を生かした地域振興を狙い、14年に宇宙交流センター「SORA」を開設。航空宇宙実験場、多目的航空公園などを整備した。19年度の実験場を含む多目的公園の利用件数は合計26件、延べ6829人に上る。同町の試算では実験などに伴う交通、宿泊、食事などの滞在費用は約3億5700万円。5年前と比べると2倍以上の額に上り、経済波及効果も大きい。

同町では今後必要とされる資金のうち、およそ半分をふるさと納税(個人・企業)などでカバーし、残りは企業を中心とする寄付でまかなう計画。SPACE COTANの小田切社長は「ひとまずめどはついている」と話す。ただしコロナ禍で先行き不透明感がないわけではない。すでに本格的なスタートを切った以上、後戻りはできない。

実現すれば国内では官主導の2カ所が鹿児島県を除き、民間によるスペースポートは初めて。世界的にも現在開港が予定されているのは英国、豪州、カナダの3カ所のみ。アジアの需要取り込みに期待が膨らんでいる。

日刊工業新聞2021年4月30日

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