将来の旅客機が今とは異なる形状になる可能性が高い理由
近年、地球温暖化対策として航空機においても二酸化炭素(CO2)の排出削減が求められている。国際民間航空機関(ICAO)では、燃料消費率を毎年2%改善する目標を掲げている。燃料消費効率を改善するためにはさまざまな技術が求められるが、このうち機体構造の軽量化が技術課題の一つとして挙げられる。
機体構造を軽量化する方法として、軽くて強い材料を用いることが挙げられる。従来用いられてきたアルミニウム合金から、近年では炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が多用されて軽量化が図られているが、現状の構造様式において材料によるこれ以上の軽量化には限界がきている。旅客機の構造様式は、1950年代にジェット機が登場して以来、セミモノコック構造が採用されており、現代までほとんど変化がない。
最近注目されているトポロジー最適化手法は、数値計算による構造最適化手法である。定義した設計空間の材料配置分布を荷重の負荷の程度によってコントロールし、繰り返し計算により最適な構造を得る手法であり、思いもよらない斬新な構造部材の配置を得られる可能性も有している。
しかしながら、トポロジー最適化では空力荷重のような分布荷重に対しては、膜状の構造となり、明確な構造部材として結果が得られないことが問題点として挙げられる。また、得られる結果が非常に複雑な形状になり、そのまま製造することが困難なことが多い。
そこで宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、トポロジー最適化の問題設定において、バイオミメティクスを応用して生物の骨格構造などをヒントにして荷重の与え方を考慮することや、近年開発が盛んな3DプリンターやCFRP自動積層装置など、新しい製造手法を用いることを前提に、これらの製造制約を考慮しながら最適化を行うバイオニックエアフレーム技術の研究を行っている。
例として旅客機主翼構造を対象としてバイオニックエアフレーム技術により得られた補強材一体型外板の一部について試作を行っている。
将来の旅客機は現在とは異なる形状になる可能性も高く、アルミニウム合金を前提とした構造様式ではなく、トポロジー最適化をうまく利用し、CFRPの特性をより生かした構造様式を提案することで、機体構造の軽量化に貢献したい。
(文=有薗仁<JAXA航空技術部門構造・複合材技術研究ユニット主任研究開発員>)