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「空飛ぶクルマ」開発最前線、電動大型 vs 小型軽量の行方

日本は大丈夫か
「空飛ぶクルマ」開発最前線、電動大型 vs 小型軽量の行方

米ベル・ヘリコプター・テキストロンがCESに出展した大型機「Bell Nexus」

 2020年代にも到来するとみられる「空の移動革命」。自動車のように手軽に乗り降りできる次世代モビリティー「空飛ぶクルマ」は、社会や産業構造を一変させ、巨大市場を生み出す可能性を秘めるだけに、スタートアップやベンチャーから大手企業まで世界中の企業が開発にしのぎを削る。既存の航空機分野でも電動化を実現する技術開発が加速。とりわけ軽量化や信頼性の実現では日本の技術優位性が発揮されるだけに成長産業としての期待は大きい。ジェット機誕生以来のパラダイムシフトが起こりつつある空の世界の最前線に迫る。

「巨体」に驚きの声


 2019年1月。米ラスベガスで開催された世界最大の技術見本市「CES」。かつては家電の新製品発表の場だったが、ここ数年は様相は一変。とりわけ自動車関連の出展が相次ぐ。前回2018年のCESでは、独ボロコプターの電動垂直離着陸機(eVTOL)の浮上デモが注目を集めたが、今回、来場者が一様に足を止めたのが実物大の電動航空機「Bell Nexus(ベルネクサス)」。パイロットを含め最大5人が搭乗できるこの機体を製造したのは、米軍輸送機「オスプレイ」などを手がける米ベル・ヘリコプター・テキストロン。

 同社は重い荷物を輸送できる物流向け開発も進めており、日本では宅配便大手のヤマトホールディングスとは「空飛ぶ宅配便」構想がある。

 「空飛ぶクルマ」と呼ばれる次世代モビリティーをめぐる開発競争は激しさを増している。世界的な企業が航空機や自動車といった業種の垣根を越えて覇権争いにしのぎを削る。ドイツ・アウディと欧州エアバス、イタリアのイタルデザインは、空飛ぶクルマ「Pop.Up.next」プロジェクトを始動。米ボーイングは2019年1月に垂直離発着型の電動有人飛行機の初飛行に成功したと発表した。

 デロイトトーマツコンサルティングによると、空飛ぶクルマの潜在需要は大きく今後、移動の4割程度が空になると予想されるだけに、離発着設備の整備や運用を支援するサービスといった新たな産業やビジネスが生まれることが見込まれる。

 人間の根源的な欲求である「移動の自由」。これを実現する世界的なうねりを前に、日本も新たな一歩を踏み出そうとしている。

官主導の環境整備、好機生かせ


【デロイトトーマツコンサルティング 高橋祐児シニアコンサルタントに聞く】

 飛行する自動車の構想自体は昔からありましたが、滑走が必要で実質的に航空機と同様のものでした。垂直離陸など実現可能性が高く、かつ社会的インパクトも大きい次世代モビリティーとして日本で検討が本格化した「空飛ぶクルマ」元年は2017年と言えるでしょう。

 世界的には大企業からスタートアップまで業界の垣根を越えた開発競争が加速していますが、まだまだコンセプト先行の面は否めない。今後は、技術的にも社会受容性の観点からも「現実的な解」を見出しながら開発が本格化する局面に入ると予測しています。

 現実路線の一例が米ベル・ヘリコプターの「Bell Nexus」です。空飛ぶクルマを手がける多くのスタートアップが小型軽量の機体を開発するなか、あえて大型仕様にこだわるのは、安全性や静音性、航続時間の確保を目指したからでしょう。

 一足飛びに電動で垂直離着陸、かつ無人操縦といった理想の機体の実現を目指すのではなく、まずはハイブリット、有人からスタートするのは現実的な戦略だからです。

 それは機体開発のみならず、社会受容性の観点でも共通しています。特に日本では「空の移動が当たり前」という感覚が市民に醸成されるまでに、高いハードルを乗り越えなければならない。そのためにはプライベートジェットやヘリコプターによるライドシェアのような新たなビジネスやライフスタイルの浸透が足がかりになるかもしれません。

 一方でいまの日本で気になるのは事業化に対する民間の取り組み姿勢です。海外では技術開発を積極的に進めると同時に、民間主導で規制当局などを巻き込みながらルールづくりを急いでいる。

 他方、日本においては一部企業が機体開発を進めたり、海外企業と組んで国内での実用化に向けたアクションに踏み出すといった動きがみられますが、多くはまだ慎重姿勢です。

 政府は空飛ぶクルマ実現へ向けたロードマップを策定し、複数の自治体は実証の場を提供する意向を表明しています。このように官主導で環境整備は進む国は世界的にも珍しい。

 海外のアプローチとは異なりますが、こうした好機を捉え、多くの企業が一歩踏みだし、ユースケースを策定したり、ビジネスモデルをいち早く構築するといった動きが広がることを期待したいですね。(談) 
高橋祐児シニアコンサルタント
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
METIジャーナル、4月の政策特集は「空の移動革命」です。次回は経済産業省の「空飛ぶクルマ」プロジェクトメンバーによる座談会を掲載します。

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