宇宙誕生の始まり、ビッグバンを見つけた男たち

おすすめ本の抜粋「トコトンやさしい天文学の本」

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国立天文台ウェブサイトより

ビッグバンの痕跡、宇宙マイクロ波背景放射―元始、宇宙は火の玉であった。

1964年、アメリカ・ベル研究所のアーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンは、あらゆる方向から届く謎のマイクロ波を発見しました。彼らは元々物理学の研究者で、アンテナのノイズを落とす仕事をしていました。ところが、ある波長帯のノイズだけがどうしても消えません。最終的に2人が行き着いたのが、それは「ノイズ」などではなく宇宙からの「シグナル」である、という結論でした。宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の発見です。この成果に基づき、2人は1978年のノーベル物理学賞を受賞しました。

CMBの発見から遡ること約20年、実はこうしたシグナルが検出される可能性は、理論物理学者のジョージ・ガモフによって予言されていました。彼が考えたのはこうです。「宇宙が膨張しているのであれば、有限の過去にはその体積が極小だったはずである。そのようなサイズにまで宇宙を圧縮すると、超高温・超高密度となる。つまり宇宙は灼熱の火の玉から始まり、膨張により冷えて今の姿になったのだ」と。ビッグバン仮説です。

この奇抜なアイデアはすぐには受け入れられませんでしたが、CMBの発見によって状況は一転しました。
 CMBは、予言通りの火の玉宇宙の痕跡です。正確には、ビッグバンから約38万年後、少し膨張して3千K(絶対温度)まで冷えた宇宙からの光を、私たちは見ています。3千Kの物質が放つ光は近赤外から可視光に相当しますが、宇宙の膨張にともなって大きく赤方偏移する(波長が伸びる)ため、我々には温度2・7K相当のマイクロ波として届くのです。

科学者ガモフの遊び心

「ビッグバン」という言葉は、「誕生直後の灼熱の宇宙」を意味する専門用語として今ではごく自然に使われています。しかし、当初この言葉はネガティブな意味で使われました。ジョージ・ガモフがビッグバン理論を唱えたころ、天文学者の間には、「宇宙は悠久不変である」とする定常宇宙論が根強く残っていました。あのアインシュタインでさえも、ルメートルが発表した膨張宇宙説(ハッブル=ルメートルの法則の物理的解釈)を当初は受け入れなかったと言われます。

イギリスの重鎮フレッド・ホイルも、定常宇宙論に固執した天文学者の1人です。彼は、膨張宇宙説が認められた後も「宇宙は元々無限に広がっているから始まりなんて存在しない」と主張し続けました。その中でホイルは、宇宙が火の玉から始まったとする仮説を揶揄する意図で「ビッグバン・アイデア」と発言したそうです。今風の言葉にすると、「宇宙が大爆発で始まった? 爆発したのはガモフの頭の方だろ?」といったところでしょうか。つまるところ、「ビッグバン」という言葉は、元々ビッグバン理論を否定する天文学者によって生み出された、一種のヘイトワードだったのです。

ところが、これを聞いたガモフは、面白がって自らの理論を「ビッグバン理論」と呼び始めます。今風の 言葉にすると、「いいね! それいただき!」といったところでしょうか。その後、彼の予言通りにCMBが発見されたことで、定常宇宙論は急速に衰退しました。ガモフの方が一枚も二枚も上手だったようです。研究者たるもの、かくありたい。

さて、この逸話からもわかるように、ガモフは非常にユーモアのある人物だったようです。ビッグバン元素合成は、彼の学生だったラルフ・アルファによる博士論文のテーマでした。ガモフはこの論文の発表時に、アルファ(α)とガモフ(ガンマ:γ)の間にベータ(β)を入れて語呂のいい「αβγ理論」と名付けたかったらしく、太陽の熱源が水素の核融合であることを初めて示したハンス・ベーテ(β)を無理やり共著者に迎え入れたと言われています。ベーテは議論に貢献したそうなのでギリギリセーフかもしれませんが、このような行為は「ギフトオーサーシップ」と呼ばれ、今では重大な研究倫理違反に当たります。研究者のみなさん、くれぐれもガモフの真似をしてはいけませんよ。


(「トコトンやさしい天文学の本」p.132ー133, p142より一部抜粋)

書籍紹介

古来より、人は空を見上げて星を観測していました。時代と共により正確に、様々な手法で宇宙を観測できるようになり、天文学が生まれました。我々が暮らしている太陽系や銀河系、超新星爆発やブラックホールといった天体現象、あるいは宇宙そのものがどのように生まれ、どのような最期を迎えるのか。本書では、宇宙についていま分かっていることを、できる限り数式を無くし、図を中心に解説していきます。

書名:トコトンやさしい天文学の本
編著者名:山口弘悦、榎戸輝揚 (著)
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:1,650円

販売サイト

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日刊工業新聞ブックストア

執筆者

山口 弘悦(やまぐち・ひろや)
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系 准教授
専門はX線天文学・原子分光実験
超新星残骸や銀河団などのX線観測や、これらの天体を構成する高温プラズマを実験室で再現して、放射過程を調べる原子分光研究を進めている。

榎戸 輝揚(えのと・てるあき)
国立研究開発法人 理化学研究所 開拓研究本部 理研白眉研究チームリーダー
専門はX線天文学・高エネルギー大気物理学
宇宙最強の磁石星とも言われる謎の中性子「マグネター」のX線観測や、X線観測を応用した雷や雷雲の高エネルギー大気物理学の研究を進めている。最近は、シチズンサイエンスを取り込んだ研究のあり方も模索している。

目次(一部抜粋)

第1章 宇宙を見る眼
宇宙からのメッセージ/宇宙を観る様々な方法/可視光天文学の発展/幸運によって開花したX線天文学/幽霊粒子を捉えるニュートリノ天文学 など

第2章 宇宙の大きさと距離
宇宙の階層構造と距離はしご/宇宙の小さな家族「太陽系」/天の川銀河とマゼラン雲/1億光年先まで続く銀河の大家族 など

第3章 太陽とその仲間
もっとも身近な恒星「太陽」/太陽表面の巨大爆発「太陽フレア」/恒星の質量と寿命の関係/双子や三つ子の星たち など

第4章 コンパクト天体
不思議なコンパクト天体の世界/高速で自転する宇宙の灯台「中性子星」/一般相対性理論が導き出したブラックホール/銀河中心の「超大質量ブラックホール」 など

第5章 激しく変動する宇宙
定常な宇宙像から激動の宇宙観へ/宇宙の巨大核融合爆弾「la型超新星」/宇宙最大の爆発現象「ガンマ線バースト」/ブラックホール合体からの時空のさざなみ など

第6章 銀河と銀河団
天の川銀河の〝発見〟と構造/銀河の回転とダークマター/銀河の活動がもたらす星のベビーブーム/誕生直後の宇宙の記憶をとどめる大規模構造 など

第7章 宇宙の始まりと終わり
ビッグバンの痕跡、宇宙マイクロ波背景放射/宇宙の開闢「インフレーション」/宇宙の晴れ上がりと暗黒時代の到来/宇宙の未来 など

第8章 これからの天文学
天文学の未解決問題と将来への展望/スペース ・マルチメッセンジャー/アストロバイオロジー/天文学と社会の関わり/天文学から考える私たちの未来 など

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