衝突事故の解析システムを無償公開し引き合いが400件に急増、トヨタの狙いとは?

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トヨタ公式サイトより

トヨタ自動車が安全技術の高度化に向け、メーカーの垣根を越えた取り組みを活発化している。自動車の衝突事故による傷害の度合いをコンピューター上で解析できる自社開発のシステムを1月に無償公開したのを契機に、他の自動車メーカーや研究機関などとの連携強化を推進。同システムを有効活用して、車の衝突安全性能を高めてもらうのが狙い。安全技術の進化に向けた仲間づくりを加速して、交通事故死傷者ゼロという業界の課題に真正面から向き合う。

トヨタは2000年に豊田中央研究所(愛知県長久手市)と共同で、車両衝突時の人体の傷害度合いを再現・解析可能な人体モデル「THUMS(サムス)」を開発した。サムスは車の衝突安全試験に広く利用されているダミー人形に比べ、人体の形状や強度を精密に再現できるのが特徴。コンピューター上でさまざまな衝突パターンを模した解析が繰り返し行え、衝突実験にかかる期間や費用を大幅に抑えられる。

完成当初から他の自動車メーカーや研究機関などにライセンス提供していたが、「トヨタだけでなく、業界全体で自動車の安全技術の向上を目指すべきだ」(北川裕一先進技術カンパニーモビリティ性能開発部統合技術室チーフプロフェッショナルエンジニア)との考えで、サムスの無償公開に踏み切ることにした。

安全技術の高度化は業界の共通課題となっており、サムスの引き合いは「無償公開後に約4倍の400件に急拡大した」(同)という。サムスは衝突安全性能のアセスメント試験でバーチャル技術の導入が進む欧州で高い評価を獲得。欧州では12年に利用者で構成する有志の団体「サムス・ユーザー・コミュニティー(TUC)」が設立され、サムスを有効活用するためのノウハウなどを利用者同士で共有する動きが出ていた。

TUCには独フォルクスワーゲン(VW)や独BMW、独ダイムラーといった完成車メーカーも参画。トヨタは欧州での実績をテコに、サムスをバーチャル人体モデルのデファクトスタンダード(事実上の標準)にすることも視野に入れる。

サムスは足元では前方車両への衝突回避を支援する「プリクラッシュセーフティー」や自動運転車両の安全研究にも用途を拡大しているほか、「(シートの座り心地など)人間の五感を定量化する『感応評価』の研究にも着手している」(北川氏)。

実車をダミー人形に衝突させるこれまでの安全試験が不要になれば、資源や電力の利用により生じる環境負荷も低減できる。トヨタは世界的に関心が高まる持続可能な開発目標(SDGs)にも目を配りつつ、自動車の安全技術を追求する構えだ。

日刊工業新聞2021年4月5日

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