コロナ禍にこそ、若者にはサードプレイスが必要だ【白尾悠さんインタビュー】

本のホント#07 『サード・キッチン』

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「不要不急の外出を控えましょう」。緊急事態宣言の発出後、昼夜を通じて、家で過ごす人も増えたのではないだろうか。人によっては、1日中会話をしない日も少なくない。かく言う私もその1人だ。そんな時、知らない人との交流をしたくなるのは人の常なのかもしれない。

第16回「女による女のためのR―18文学賞」で大賞、読者賞をダブル受賞した白尾悠さん。2作目「サード・キッチン」はサードプレイスでの人間的成長を描いた。新型コロナウイルスによる不安定な時期に、新しい人とのかかわり方や肩の力をいかに抜いて生きるか、話を聞いた。

あらすじ
アメリカの大学に留学した19歳の尚美は、たどたどしい英語で会話もままならず、友人もできずにひとりぼっち。人間関係をあきらめ勉強だけに邁進していたある日、偶然言葉を交わした隣室のアンドレアとともに、さまざまなマイノリティが集まる、ある学生食堂に招かれる。美味しくてあたたかい食事と人種も性別もバラバラの学生たちとの繋がりが、彼女を変えていく。

差別を乗り越えるためのサードプレイスを描きたかった

―今作は人種差別問題に加え、「サードプレイス(※1)」の重要性を主人公の成長とともに、強調したように感じます。

※1サードプレイス:第1の場所「家」、第2の場所「職場」の間の誰もが心地よく過ごすことのできる場所を指す。アメリカの社会学者、レイ・オルデンバーグはある特定の場所への思いを確立するのに重要だと論じた。

小説を書き始めた当初から、このテーマで作品を残したいと考えていました。私自身の留学経験をもとに見たり、聞いたりしたことがベースになっています。

留学に行く前から、日本が「単一国家」であるという主張に疑問を持っていました。アメリカに行ってから、この主張が間違っていると自分の心の中でしっかり確信を持つことができました。アメリカでは多くの人種が常に存在し、生きています。そういった環境では、差別という問題を意識せずにはいれませんでした。

また、階層の中にも階層が存在し、周辺化される人々がいるというのも事実です。留学時のアメリカでは、マイノリティといわれる人の中に、さらに周辺化される人々がいるという事実です。そういった人々が「必要として」作るサードプレイスの重要性を感じとっていました。あらゆる環境から排された人々が作る、自らの安全領域、セーフスペースの確保です。さらに、そういった場所には属性やラベルを取り払った人間関係が形成される様子も見てきました。新しい考え方や自分自身の視座を広げる上でも貴重です。

―人は意識していないと、自分に近い属性同士で集まってしまいます。

確かに意識をしないとそうなるかもしれません。ただ、コロナ禍において、我々が希求しているコミュニケーションは全く異なると思います。属性やラベルに縛られない関係性こそ、求めているものであり、コミュニケーションの本質に迫れるのではないでしょうか。

私自身の話ですが、今回の本の出版した際に、友人の友人がこの本をテーマに読書会を開いてくれました。そこでのルールは相手の意見を否定しないこと。そこには、こんな感想を言っていた人という以外、情報はありません。様々な意見が飛び交い、色々な人の視点を見ることができました。その場所の心地良さは素晴らしかったです。初めて知り合う者同士が属性などのしがらみから逃れ、肩の力を抜く瞬間が必要なのだと強く感じます。

―ただ、新型コロナウイルスの流行に伴って、新しい人と関係性を深めることが難しくなりました。

リアルとオンラインはどちらが有用化ではなく、どちらも有用なのではないでしょうか。実際、新型コロナウイルスが流行した後、年に1度クリスマスカードを交換する程度だった大学時代の友人とオンラインのコミュニケーションを活発に行うようになりました。ただ、それもリアルの関係性がちゃんと下敷きにあったからこそだと思います。コミュニケーションはパーソナルな空間であるからこそ深まっていくものではないでしょうか。特にSNSが、完全なコミュニケーションの代替にならないのは、パブリックな要素が強すぎると思います。どのような仕事をしていて、何が好きなど取り繕った言葉では、本当に深い関係性を築くことは難しいです。

リアルであっても、オンラインであっても、重要なのはラベルが剥がれたその人と向き合うことではないでしょうか。

―こういった状況の中で私を含めた若者は、孤独や「目の前の仕事」に没頭するなど一直線な思考に陥りがちだと感じます。

やはり新しい人と接する機会を増やすべきではないでしょうか。もちろんこんなご時世なので、いきなり対面で、というわけにはいきませんが、SNSなどがあります。趣味であったり、好きなものが重なる人と繋がったりする機会を持つことはいくらでもできます。そこから、よりパーソナルな空間へ移っていきます。

また、たまに会える人や、ふとした時に「どうしているかな」と思い浮かべる人がいるだけでも十分だと思います。何よりも大切なのは「自分を幸せにできる」関係性を見つけることです。

肩の力を抜く

―若者は多くの場合、硬直的で肩を張ってしまうものです。

本の主人公、「尚美」も19歳の少女です。不器用で自分自身を持ち上げることが苦手な性格です。読者からも「やきもきした」と言われましたが、現実の若者も同じように不器用なのではないでしょうか。だからこそ、器用に生きようとするのではなく、ある意味いい加減で、肩の力を抜くことが楽に生きるコツだと思っています。私自身、大人になってから、楽に生きられていると感じるようになりました。

―楽に生きることのため、白尾さんが意識されていることはありますか。

批評的な視点を持つことかなと思っています。自分が少しでもモヤモヤしたことがあるなら、その裏には無視しがちな自分の感情が隠れています。外付けの感情や理由は、結局後付けの感情なのです。当たり前だと思っている感情や規範を疑ってみることで違うものが見えてくるのではないでしょうか。

―今後の執筆予定のテーマなどはございますか。

スポットライトが当たらない人々をテーマに据えていきたいです。世の中は「若さ」に対して、非常に価値を見出していますが、「年を重ねること」の美しさを書いていきたいです。若さの価値はやはり植え付けられたものでもあると思いますし、そこを飛び越えた人生賛歌が今後の中心的なテーマになると思います。

略歴
神奈川県生まれ。東京育ち。米国の大学を卒業後帰国し、外資系映画関連会社などを経て、現在はフリーのデジタルコンテンツ・プロデューサー、マーケター。2017年「アクロス・ザ・ユニバース」で第16回「女による女のためのR―18文学賞」大賞、読者賞をダブル受賞。18年、受賞作を収録した『いまは、空しか見えない』(新潮社)でデビュー

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