産業観光で尾州を取り戻せ!“ひつじサミット”は地域復興の起爆剤になるか
世界でも有数の毛織物産地として知られる尾州地域(愛知県西部、岐阜県南西部)で、産業観光によって地域振興を目指す新たな取り組みが始まる。仕掛け人は後継者・後継者候補を中心とする若手11人。第1弾として工場見学などを同時多発的に行うイベントを6月に開く。その名も「ひつじサミット尾州」。生産量、事業所数とも減少の一途をたどる尾州織物。次代を担う同志たちは産地の衰退を食い止め、地域に活気を取り戻すことができるか。(名古屋・永原尚大)
2020年12月。年の瀬も押し迫った某日、名古屋市内のジンギスカン専門店に尾州の3人の姿があった。テキスタイルの三星毛糸(岐阜県羽島市)社長の岩田真吾氏、ニット生地の宮田毛織工業(愛知県一宮市)の宮田貴史氏、染色の伴染工(同)の伴昌宗氏。3人は尾州の未来について熱い議論を交わした。「産業観光をやろう」「作り手の顔が見える産地に変えたい」。岩田氏は暖めていたアイデアを2人に披露した。同じく強い危機感を抱いていた宮田氏、伴氏も賛同し、後のひつじサミット尾州につながる方向性が固まった。
岩田氏が産業観光を訴えたのは、消費者からの認知度を高めたいという狙いからだ。尾州地域では最終製品を手がけることが少なく、BツーB(企業間)の仕事がメーン。この先、尾州織物が選ばれ続けるには、もっと一般消費者に知ってもらうことが重要と考えた。
3人の会からほどなくして、考えに共感する8人の仲間が加わった。繊維業だけでなく物流会社や飲食店も参加した。その中の一人、料亭「菊水」(愛知県一宮市)の平松千直氏は「業種の垣根を越えて地域を盛り上げたい」と意気込みを語る。この30―44歳の「アトツギ」11人が共同発起人として産業観光イベントを練っていった。企画にあたっては新潟県燕三条地域や福井県鯖江市周辺地域など産業観光イベントで先行する地域のキーマンへのインタビューを実施し、参酌した。開催日は「ひつじの日」に認定されている6月6日と、その前日の5日の2日間。参加企業は30社を超える予定。複数の工場で同時多発的に見学やワークショップなどを行い、飲食店では羊に関連する特別メニューも提供する。
来場者数は2日間で延べ1万人、産地への経済効果2500万円を見込んでいる。現在も参加企業は募集中で、4月をめどにイベントの詳細な概要を公表する。
尾州は紡績、生地、染色といった各工程の専業が集積する地域。同業間の連携は乏しく「人と人のつながりは希薄だった」(共同発起人の一人)という。ひつじサミット尾州の成否はもちろん重要だが、イベントを一過性の盛り上がりに終わらせず、それをきっかけに地域内に横糸を通すような連携を生みだし、一丸となることこそ産地復興には欠かせない。11人のアトツギが織りなす新たな尾州ブランドが注目される。