ソフトバンクが空や海から通信つなぐ。3.11の教訓生かし基地局に代わりドローン
携帯通信大手が地上に加え、空や海から通信をつなぐ取り組みを加速している。飛行ロボット(ドローン)やヘリコプター、水陸両用車など、作業に活用する機器も多彩だ。東日本大震災後も台風や洪水といった災害がたびたび発生しており、迅速な通信復旧の重要性は論をまたない。各社はこれまでの経験や教訓を風化させることなく、人材育成や新技術の確立に不断の努力が求められる。(苦瓜朋子、斎藤弘和)
ソフトバンクは、災害で基地局が停波した際の臨時の基地局として機能するドローン無線中継システムを2021年度以降に実用化し、全国主要拠点に配備する。無線中継機を搭載したドローンを上空100メートルまで飛ばして電波を発することで、半径5キロメートル以上の広範囲をエリア化できる。必要な電力を地上から有線給電することで50時間利用できることを確認した。必要な機器を現地に輸送し、約1時間で運用できるという。
第4世代通信(4G)回線とWi―Fi(ワイファイ)を利用し、自律飛行と現地での目視操縦、遠隔からカメラ映像を用いた目視外操縦が可能。急な天候の変化や電波状況に応じて通信手段を切り替えられる。今後は実用化に向け、雷の接近を検知し、自動で高度を下げる機能なども開発する計画だ。
KDDIは、ヘリコプター基地局の開発を進めている。基地局を人が背負って搭乗できる約7キログラムまで軽量化。上空150メートルから電波を発し、直径2キロメートル圏内で通話やデータ通信を可能にする。現在、他の基地局との混信を防ぐためヘリコプターで携帯通信の電波を使うことは規制されており、法改正を待って実用化を検討する。
また、浸水や障害物により通常の車両が通行できない場合に備え、国内通信会社として初めて水陸両用車と四輪バギーを導入した。20年7月の九州豪雨で球磨川の氾濫により一部地域で復旧に時間を要した教訓を生かした。
普段は競合している通信大手同士が連携する例もある。NTTとKDDIは、災害時に両社が所有するケーブル敷設船を相互利用し、被災地へ物資を共同輸送することを決めた。陸路での物資輸送が難しい場合に、一隻の船舶で両社の可搬型基地局や発電機、水、食料などを運び、復旧活動を迅速化する。
ただ当然ながら、通信会社の災害対応では地上での地道な取り組みも重要になる。東日本大震災時に福島県で設備復旧の陣頭指揮を執った経験を持つNTTの渋谷直樹副社長は「泥まみれになって通信を守る社員がいることが我々の一番のアセット(資産)であり、失ってはいけない。10年たって、当時を知る人も減ってきている」と自戒を込めて語る。
その上で「労働集約型でやってきた部分が多いため、ドローンや衛星などを活用した新しいスタイルは必要」とした。通信各社は社員の使命感と技術力を両立し続けられるか、試される。