あなたは自分の会社に愛着を持ってますか?企業が注目する「従業員エンゲージメント」を解説

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上司と部下で経営ビジョン共有(イメージ=中外炉工業提供)

経営理念共感―成長の源泉

従業員の企業に対する信頼度・愛着度を指す「従業員エンゲージメント」について、日本企業の取り組みが広がっている。働きやすさや報酬に着目した従業員満足(ES)を高めるこれまでの考え方とは異なり、企業と従業員の信頼関係に基づく双方向の枠組みだ。従業員エンゲージメントが注目される背景や、企業がどのように実践しているのかを探った。(編集委員・宮里秀司、同・鈴木岳志)

職場の愛着度、数値化

経験やスキル、興味や関心が異なる従業員のベクトルを、いかに合わせていくのか―。コンサルティング会社ウイリス・タワーズワトソンの論考「この10年間、従業員意識調査の焦点はなぜ『エンゲージメント』なのか?」によると、「組織のミッションやビジョン、バリューは、従業員のエンゲージメントを伴うことでのみ到達可能となる」と説明する。

同社では従業員エンゲージメントについて「企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持っていること」と定義。加えて「従業員エンゲージメントが高ければ、会社が想定した以上の成果を生み出す可能性がある」という。

従業員エンゲージメントを測る一つの手法として、自分の職場で働くことを身近な人に薦めるかどうかを表す「eNPS(エンプロイー・ネット・プロモーター・スコア)」がある。従業員にアンケートをして、自分の職場に対する推奨度を数値化した指標だ。

近年、企業の間でeNPSへの関心が高まりつつある。eNPSなどを用いた調査・分析サービスを手がける、エモーションテック(東京都千代田区)の今西良光社長は「少子高齢化に伴う労働力減少と人材確保の難化が背景にある」と解説する。

完全失業率は2009年から19年までが下がり続け、企業が人材を“選ぶ立場”から“選ばれる立場”に変化したことに着目した。「限られた人材でより生産性を高めていこうという企業意識の変化などが、eNPSの注目度向上につながった」(今西社長)とみる。

コンサル・クラウド事業などを手がけるリンクアンドモチベーションの研究機関「モチベーションエンジニアリング研究所」は20年3月、従業員エンゲージメントに関する調査をまとめた。

同調査によると、労働環境、上司からの支援、業務の効率性への満足度は上昇傾向にある一方で、会社や職場の一体感、成果の追求、理念の浸透への期待度は低下傾向にある。

企業の働き方改革やコンプライアンスの推進が満足度向上に寄与していると推察されるものの、従業員エンゲージメントには必ずしも結び付いていないのが現状だ。

従業員エンゲージメントの向上には「従業員が自社の将来に期待できるような、理念・戦略・目標の設定、それらを浸透させる上下のコミュニケーションの強化を一貫性を持って行うことが求められる」と指摘する。

自社に対するエンゲージメントが高い従業員ほど、顧客に対しても、自社の製品やサービスについて愛着や熱意をもって説明し、接客態度が良くなる傾向が見られる。従業員の自発的な貢献意欲や会社への愛着度を高め、従業員と企業が相互に信頼関係を築いていけば、業績ひいては企業価値の向上につながっていくのではないだろうか。

国内先行事例

サトーHD 働きがい向上、課題共有

サトーホールディングス(HD)は、多様なバックグラウンドを持つ従業員が活躍する組織をつくるため、17年頃から働きがいを向上する活動を行ってきた。20年度から従業員エンゲージメントを測定する外部サービスを導入し、半年に1回(年2回)のeNPSに関する調査を始めた。

報酬や仕事の質・量、ワークライフバランスなど22項目を分析した。結果は経営会議だけでなく、製造や営業など各部門の本部長・部長クラスからなる20人弱の「働きがい向上リーダー」にも共有、課題把握に役立てている。

「例えば『上司と部下とのコミュニケーション』『職場の雰囲気』といった課題が出てきた場合には、『働きがい向上アクション』として、面談の機会を増やしたり、他者を称賛する仕組みを整えるなど課題解決に取り組んでいる」(国内人財開発室)。今後は生産性や売上高の向上などの成果も意識するという。

中外炉工業 経営計画で着目

中外炉工業は18年秋以降、経営計画を策定する中で、従業員エンゲージメントに着目し、eNPSの導入を決めた。取り組みは経営企画で主導したが、「経営層の了解を得た上で人事総務部と一緒にプロジェクトを進めた」(経営企画室企画管理課長の篠塚陽氏)。

同社は19年から、eNPSなどを用いた測定を行うエモーションテック(東京都千代田区)のサービスを利用。調査の結果、「経営方針やビジョンが従業員に伝わりきれていないのではないか」(篠塚氏)との課題が浮かび上がった。19年12月、社長が経営理念などを語るインタビュー動画をイントラネットに公開した。

同社ではeNPS調査の結果の概要を従業員に公開している。従業員エンゲージメントに関する効果については「これから検証していきたい」(同)としている。

三菱電機 誇り・意欲、8割目指す

三菱電機は一連の労務問題で低下した従業員エンゲージメントの回復に力を入れる。働くことの誇りや貢献意欲、他者への入社推奨などの質問に対する良好回答社員の割合(平均値)「従業員エンゲージメントスコア」は20年度で63%だったが、22年度に70%、将来は常時80%を目指すKPI(重要業績評価指標)を掲げた。

個人の価値観や志向を踏まえたキャリア開発支援なども行うが、まずは各従業員の変化により敏感になることが大事だ。そのためには積極的なコミュニケーションが不可欠とする。コロナ禍でリモートワークが増えて、孤独感を覚える社員も少なくないという。同社は上司が最低1日1回部下の顔を確認するなど、わずかな変化を読み取る努力を続ける。

米中対立やコロナ禍で成長の踊り場に差し掛かった同社にとって、従業員のやる気を取り戻すことは成長軌道への回帰にもつながるはずだ。

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