コンクリートの橋よりも寿命の長い「石橋」、全国の9割が集中する九州の資産に!
全国には1000―2000の石橋が現存するとされ、その9割が九州に集中する。江戸時代、西洋の石橋技術が中国経由で伝わったためだ。また、大正時代まで熊本県八代市を拠点に石橋造りの技術集団が活躍するなど、地元の産業となっていた。
現在、石橋が新設されることはほとんどないが、技術は守られている。尾上建設(熊本県山都町)は石橋の修復を担う全国でも珍しい会社だ。土木や建築を本業とする従業員30人の建設会社だが、石橋の修復や調査依頼が後を絶たない。
同じ山都町にある通潤橋の測量を1982年に請け負い、石橋に携わるようになった。通潤橋は橋の中央から豪快に放水する光景が有名だ。02年には補修も担当し、尾上建設の社名が知られるようになった。
社会的価値
15年には山形県の石橋修復に携わった。豪雨で半壊し、同社の尾上一哉会長に「明日にも来てほしい」と連絡があったという。「積雪のある冬に作業ができないというのは初めての経験だった」(尾上会長)と当時を鮮明に思い出す。
修復をこなすうち、石橋の社会的価値に気づいた。鉄筋コンクリートの橋よりも寿命が長く、石橋を長持ちさせることがインフラ維持の社会的負担を減らせる。また「自分たちの仕事は、(資源を有効利用する)サーキュラーエコノミーなんだ」と最新の環境課題との接点も感じる。
高校で出前授業
歴史家や研究者が集まる「日本の石橋を守る会」にも参加し、技術的な価値への理解も深めた。「石橋の構造は場所によって違う。計算されており、最高峰の技術」とほれ込む。
地元の矢部高校で石橋技術を教える出前授業も始めた。「石橋が地域の特色になればいい」と期待する。
石造りの建築物の本場であるフランス出身者も尾上建設で働いている。地域の資産である石橋の保存が、同社の企業価値を高めている。各地の中小企業も地域の資産との関わりによって自社の特色を作れそうだ。