【動画あり】カップ麺のフタが3分間開かない技術はどのように生まれたのか
共同印刷に聞いてみた。コストは2ー3割増も新規性に自信
カップ麺にはまだイノベーションの余地が残されている。
印刷大手の共同印刷が先日、「カップ麺のフタを簡単に閉じられる」リシールフタ材の開発を発表した。カップ麺のフタといえば、お湯を注いで3分待つ間にフタが開かないように、箸や小皿を置いたり、あるいは付属のシールを貼るのが一般的。同社によると、再び閉じても「24時間以上、勝手に開くことはない」のだとか。再密封性が高まれば、日常生活だけでなく、野外での食べ方が変わったり、蒸らしを生かした新しい商品の開発に結びつくことも期待できる。リシールフタ材誕生の背景を聞いてみた。(取材・小川淳)
東京・小石川の共同印刷本社で、リシールフタ材を用いたカップ麺の容器を見せてもらった。少し力を込めてフタを開いた後、フタを閉じるとくっついて再び開くことがない。閉じる際の力はほとんど要らない。リシールフタ材の部分は手で触ってもシールのように決してベトつくわけではなく、不思議な感じだ。
「この技術は、カップ焼きそばの湯切りに使う素材の開発で培った知見や技術を応用したものです」。同社技術開発本部包材製品開発部長の佐々木雄一さんはこう説明する。
湯切り部分を加工する同社の「パーシャルオープン」技術は、剥離しやすい樹脂を表面と内面でそれぞれ挟み込んでコーティングしている。さらに切り口をダイカッターで精密にマイクロメートル単位で制御できる「ハーフカット」技術によって、簡単に湯切り部分を手ではがせるようにした。
今回開発したリシールフタ材は、「リシール層」部分の樹脂を表面と内面でそれぞれ挟み込むなど、基本的な構造はパーシャルオープンと同じ。ハーフカット技術で開封しやすくしていることも同様だ。肝心のリシール層の素材自体は「企業秘密」ということで教えてもらえなかったが、使っているのは「特別なものではない」(佐々木さん)。当然、食べ物の容器に使っても安全性の問題はない。
見せてもらった容器のフタは、上から見ると下半分だけが再接着可能となっており、上半分は一度はがすとくっつかない通常のフタになっている。もちろんフタ自体は完全に取り外すことができる。
佐々木さんによると、研究を始めたのは2015年ごろ。「発想が面白いですね」と尋ねたところ、「アイデアは昔からありました。他社でも研究はしていたと思いますが、素材などにたどり着かなかったのではないでしょうか」と説明する。
佐々木さんと一緒に開発に取り組んだ同部の真田さゆりさんは、「フタを開ける際のちょうどいい力加減を決めるのに時間がかかりました。強すぎてもいけませんし、弱すぎてもダメなので」と振り返る。佐々木さんも、「何しろ世の中にない製品だったので、基準を自分たちで決めなくてはなりませんでした。試行錯誤でした」と感想を口にする。
一方、日本即席食品工業協会によると日本の即席麺の生産量が約57億食(18年度)と右肩上がりで伸びる中、このうち約39億食がカップ麺と大半を占める。袋麺市場は縮小しており、当然各食品メーカーはカップ麺の商品開発に力を入れる。
同社生活・産業資材事業本部包装事業部営業第1部長の川口博史さんは、「女性や高齢者、カロリーオフなどカップ麺の中身はコンスタントに新製品が出ていますが、容器は変わっていません」とリシールフタ材の新規性を強調する。
現在、このリシールフタ材はカップ麺などの大手食品メーカーなどに採用を提案している段階。評価テストの段階では製造ラインに組み込んでも問題はなかったという。実際に採用されるかどうかはこれからだが、メーカー側の反応は上々だそうだ。
このリシールフタ材を使うカップ麺の具体的な効果としては、単にフタの上にものを置かずに済むだけでなく、例えばコンビニなどでお湯を注いだ後に持ち運ぶ時にこぼれにくくなったり、キャンプやイベント、工事現場など野外で食べる時に虫や異物が入るのを防いだりなどが期待できる。
また、蒸らし効果が高まるので、カップ麺の新製品の開発につながるかもしれない。カップ麺以外の展開も想定しており、例えば菓子類の容器に使用すれば、食べている途中でワンタッチで閉じ、風味を落とさずにまた食べることも可能となる。
共同印刷は、このリシールフタ材自体の売上目標として、2022年度に3億円を掲げている。
さて、気になるコストだが、リシールフタ材を使用することでフタのコストは2、3割あがる見通しだという。実際の価格は食品メーカーなどとの相対になるが、普及にはこのコスト上昇分を上回るだけのメリットをメーカーや消費者が感じてくれるかがカギになる。
国民食どころか「地球食」にまで成長した即席麺市場。中でもカップ麺は中身はともかく、容器としてはすでに完成していると思われていた。カップ麺のフタにイノベーションを起こす取り組みが成功すれば、世界中の容器のフタが置き換わるかもしれない。
印刷大手の共同印刷が先日、「カップ麺のフタを簡単に閉じられる」リシールフタ材の開発を発表した。カップ麺のフタといえば、お湯を注いで3分待つ間にフタが開かないように、箸や小皿を置いたり、あるいは付属のシールを貼るのが一般的。同社によると、再び閉じても「24時間以上、勝手に開くことはない」のだとか。再密封性が高まれば、日常生活だけでなく、野外での食べ方が変わったり、蒸らしを生かした新しい商品の開発に結びつくことも期待できる。リシールフタ材誕生の背景を聞いてみた。(取材・小川淳)
「湯切り」がヒント
東京・小石川の共同印刷本社で、リシールフタ材を用いたカップ麺の容器を見せてもらった。少し力を込めてフタを開いた後、フタを閉じるとくっついて再び開くことがない。閉じる際の力はほとんど要らない。リシールフタ材の部分は手で触ってもシールのように決してベトつくわけではなく、不思議な感じだ。
「この技術は、カップ焼きそばの湯切りに使う素材の開発で培った知見や技術を応用したものです」。同社技術開発本部包材製品開発部長の佐々木雄一さんはこう説明する。
湯切り部分を加工する同社の「パーシャルオープン」技術は、剥離しやすい樹脂を表面と内面でそれぞれ挟み込んでコーティングしている。さらに切り口をダイカッターで精密にマイクロメートル単位で制御できる「ハーフカット」技術によって、簡単に湯切り部分を手ではがせるようにした。
アイデアは昔からあった
今回開発したリシールフタ材は、「リシール層」部分の樹脂を表面と内面でそれぞれ挟み込むなど、基本的な構造はパーシャルオープンと同じ。ハーフカット技術で開封しやすくしていることも同様だ。肝心のリシール層の素材自体は「企業秘密」ということで教えてもらえなかったが、使っているのは「特別なものではない」(佐々木さん)。当然、食べ物の容器に使っても安全性の問題はない。
見せてもらった容器のフタは、上から見ると下半分だけが再接着可能となっており、上半分は一度はがすとくっつかない通常のフタになっている。もちろんフタ自体は完全に取り外すことができる。
佐々木さんによると、研究を始めたのは2015年ごろ。「発想が面白いですね」と尋ねたところ、「アイデアは昔からありました。他社でも研究はしていたと思いますが、素材などにたどり着かなかったのではないでしょうか」と説明する。
佐々木さんと一緒に開発に取り組んだ同部の真田さゆりさんは、「フタを開ける際のちょうどいい力加減を決めるのに時間がかかりました。強すぎてもいけませんし、弱すぎてもダメなので」と振り返る。佐々木さんも、「何しろ世の中にない製品だったので、基準を自分たちで決めなくてはなりませんでした。試行錯誤でした」と感想を口にする。
一方、日本即席食品工業協会によると日本の即席麺の生産量が約57億食(18年度)と右肩上がりで伸びる中、このうち約39億食がカップ麺と大半を占める。袋麺市場は縮小しており、当然各食品メーカーはカップ麺の商品開発に力を入れる。
同社生活・産業資材事業本部包装事業部営業第1部長の川口博史さんは、「女性や高齢者、カロリーオフなどカップ麺の中身はコンスタントに新製品が出ていますが、容器は変わっていません」とリシールフタ材の新規性を強調する。
現在、このリシールフタ材はカップ麺などの大手食品メーカーなどに採用を提案している段階。評価テストの段階では製造ラインに組み込んでも問題はなかったという。実際に採用されるかどうかはこれからだが、メーカー側の反応は上々だそうだ。
2022年度に売り上げ3億円
このリシールフタ材を使うカップ麺の具体的な効果としては、単にフタの上にものを置かずに済むだけでなく、例えばコンビニなどでお湯を注いだ後に持ち運ぶ時にこぼれにくくなったり、キャンプやイベント、工事現場など野外で食べる時に虫や異物が入るのを防いだりなどが期待できる。
また、蒸らし効果が高まるので、カップ麺の新製品の開発につながるかもしれない。カップ麺以外の展開も想定しており、例えば菓子類の容器に使用すれば、食べている途中でワンタッチで閉じ、風味を落とさずにまた食べることも可能となる。
共同印刷は、このリシールフタ材自体の売上目標として、2022年度に3億円を掲げている。
さて、気になるコストだが、リシールフタ材を使用することでフタのコストは2、3割あがる見通しだという。実際の価格は食品メーカーなどとの相対になるが、普及にはこのコスト上昇分を上回るだけのメリットをメーカーや消費者が感じてくれるかがカギになる。
国民食どころか「地球食」にまで成長した即席麺市場。中でもカップ麺は中身はともかく、容器としてはすでに完成していると思われていた。カップ麺のフタにイノベーションを起こす取り組みが成功すれば、世界中の容器のフタが置き換わるかもしれない。
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