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お箸の先が細いのは日本だけって知ってましたか?

懐かしい昭和の香り漂う街並み、路地の先に天を突くタワーマンション―この東京、佃島の風景をどうとらえたらよいだろう。

「漆芸 中島」はそんな街の、名物、佃煮(つくだに)の店もある一角に店を構える。店先に、お椀(わん)とお箸。お椀にはさいころ型のこんにゃくがひとつ、水に浮かぶ。「こんにゃくの角がつまめます おためし下さい」とあるので試してみたら、ほんとにすべらず角をつまめて、こんにゃくがぶらさがってきた。

江戸漆器の店舗兼工房で、中では十一代目・中島泰英さんが軽く首を傾けてお箸を研いでいらした。四筋の格子の間で「佃」の字がはずむ柄のダボがなんとも粋だ。

お箸の材料は桜や紫檀(したん)、黒檀(こくたん)…、いずれも稀少(きしょう)だが、中でも青黒檀は「幻の」とつくほど。それらを八角箸や五角箸に削る。

五や八は縁起がよいのですか―「縁起がどうこうなんて、商人が売るためにあとからつけるんだよ」

丸は作らないんですか―「丸はすべって持ちにくい。八角箸が持ちやすい」

外のお箸も八角だった。あらためて持ってみると、角がちょうどよい具合に指にあたって安定する。それがそのまま先へと細く鋭く削られているから、こんにゃくも難なくつまめたのだ。

お箸は長く使えば使うほど味が出るそうで、ここのお箸は無料で修理してもらえる。「先を噛(か)んで折れることがある。だから長いお箸がいいよ」「お箸は毎年換えましょうなんて、売るために商人が言うんだ」

まさに質実。飾り気がなく、まじめの意だが、質と実があれば飾る必要がないことを知る。

お箸を使う国や地域は多々あるが、先が細いのは日本だけだと中島さん。食べ物をつまむだけでなく、分けたりほぐしたりするからだと。それをよいお箸でしたら、いっそうおいしく食べられるだろうと思う。

そのあとは洗剤やスポンジを使わず、ぬるま湯や水で洗うと聞いて思わず、油がついても、ですか―「昔ながらのものは大丈夫」

創業三百年。江戸から現在に至るまで使い続けられ、そしてこれからも―時を経てもかわらぬお箸、人のかわらぬ営みに、ふと、路地から見た佃島の風景が「わかった」ような気持ちになった。

文=有吉玉青、画=黒澤淳一

漆芸中島=創業享保年間(1720年ごろ)/東京都中央区佃1の4の12/03・3531・6868
日刊工業新聞2020年11月6日

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