ミャンマーのクーデター、募る「国軍への不信感」をひも解く
「造反」恐れる国軍の暴走
民主主義がようやく定着し始めていたはずのミャンマーで1日、クーデターが発生した。立法、行政、司法の全権をミン・アウン・フライン国軍総司令官が掌握し、アウン・サン・スー・チー国家顧問、ウイン・ミン大統領と与党NLD(国民民主連盟)幹部多数を拘束した。1990年のミャンマー初の総選挙でNLDは80%の議席を獲得する圧倒的勝利だったが、その結果を握りつぶした国軍の体質は、それから30年が過ぎた今も全く変わっていない。
今回のクーデターの理由について国軍は、総選挙での選挙人名簿に大規模な不正があったことをあげている。国軍総司令官は、「国軍こそが、憲法、民主主義の擁護者」として、クーデターを正当化しようとしている。国軍はデモ隊に銃を向けており、欧米や国連などからの警告も無視している。一方、ミャンマー市民の不服従運動(CDM)は収まる気配はなく、経済に大きな打撃を与えている。22日には全国の商業施設、企業や工場のほとんどが臨時休業するゼネストが実施され、現地報道によれば全国で100万を超える過去最大規模のデモが実施された。今後の混乱拡大と長期化は必至。ミャンマーの投資環境は地に落ち、撤退企業も出そうだ。
2020年11月の総選挙でNLDは、15年の総選挙で得た390議席を上回る396議席(476の改選議席の83%)を獲得し圧勝。一方、連邦議会で41議席あった最大野党の国軍系の連邦団結発展党(USDP)は33議席への惨敗。この結果を見た国軍は、NLDへの恐怖心を高めた。
現行憲法では、連邦議会の25%を軍人議席枠とし、憲法改正を防いでいる。だが、造反議員が出たりすると、軍人枠の変更やスー・チー大統領誕生を許す憲法改正が実現してしまう。
NLD関係者によれば、20年11月の総選挙後、軍人とその家族の多くがNLDに投票したことに国軍指導部が気づいた。そこで、国軍は、軍関係者が多く住む全国170以上の地域で選挙を終えた人の名簿提出を、選挙管理委員会(UEC)に求めたが、UECとNLDは拒否したという。
クーデター直後、国軍は非常事態宣言後のやり直し総選挙で民政に戻すと約束した。だがNLD関係者は、やり直し総選挙までに「NLD解体を狙っている」と警戒している。10年11月の総選挙は、現行の「2008年憲法」が民主的でないとしてNLDがボイコットしたのでUSDPが圧勝し、テイン・セイン政権をスタートさせている。
クーデター後にミン・アウン・フライン国軍総司令官自身が発表したように、これまで5年間のNLD政権で進まなかった経済の回復と武装勢力との和平推進を、国軍が実現することで指導力を誇示したい考え。クーデター当日の1日、テイン・セイン政権時代に経済を立て直した人物を経済関係の新大臣に任命。3日には総司令官自らがミャンマー商工会議所連盟幹部と会談して経済重視を説明した。
トヨタ自動車では初のミャンマー工場をほぼ完成した時にクーデターが起きた。ミャンマー日本商工会議所の加入企業に限っても433社がミャンマーに進出している。「コロナ」が続く中、CDMで銀行や役所が機能せず、輸送、通信面などでも進出企業は苦慮している。
アジア・ジャーナリスト 松田健