脳神経外科手術分野で欠かせないフジタ医科器械、新分野「便失禁治療」に国立がん研と挑む

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国立がん研究センター東病院の西澤祐吏医師(左)とフジタ医科器械の前多宏信社長。手にするのはともに開発した装置

脳神経外科手術の世界ではその名を知られたフジタ医科器械(東京都文京区)の医療器具。医療機器の製造・販売も行う専門商社として独自のビジネスモデルを確立し、医療現場のニーズを具現化する開発力に定評がある。2019年の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」にも選定された同社がいま、新たな治療分野にその力を発揮し、飛躍を遂げようとしている。

QOLに関わる問題

がんの中で、日本人が最も多くかかる「大腸がん」。早期に発見して適切な治療を受ければ治癒する可能性が高い疾患だが、特に直腸がんの術後では、自身の肛門温存が可能であった場合にも、術後の排便機能障害に悩まされるケースが少なくない。QOL(生活の質)に直結する切実な問題であり、これを治療するリハビリテーションとしての有用性が期待されているのがバイオフィードバック療法である。医師のニーズを基に同社が開発したのがこの治療に特化した筋電図計である。

開発を持ちかけたのは国立がん研究センター東病院大腸外科の西澤祐吏医師。多くの症例と向き合う中での問題意識、開発の背景をこう語る。

「直腸がん手術に伴う括約筋の損傷・切除やリザーバー機能(便を貯める機能)の低下は排便機能障害の原因となります。2017年に『便失禁治療ガイドライン』が刊行され、日本でもより積極的な便失禁治療が実施されるようになり、欧米に比べ遅れていたこの分野にようやく日の目が当たってきたのが実情です。しかし骨盤底筋訓練やバイオフィードバック療法といったリハビリテーションは、効果が見えにくいことが課題で、広く普及に至っていないのが現状です」。

西澤医師

そこでフジタ医科器械に開発を打診したのは、括約筋のトレーニングやその結果を筋電図から得られる生体情報として可視化できる装置。機能面はもとより、医療現場にとって使いやすく、しかも広く普及させるには、量産コストを抑えることも開発のポイントとなった。

協力企業のネットワーク生かして

フジタ医科器械は販売する機器の製造や安全性試験については協業企業に外注するファブレス企業。これまでも医師の個別ニーズやアイデアにきめ細かく対応することで信頼を獲得してきたが、これに加え、今回、とりわけ発揮されたのが協力企業とのネットワーク。プローブと呼ばれる使い捨ての電極や筋電計、ソフトウエアなどパーツごとに協力企業による生産分業体制を構築。そこには医工連携に力を注いできた西澤医師の人脈やプロジェクト管理ノウハウも生かされた。フジタ医科器械の前多宏信社長はこう振り返る。

「オープンイノベーションはモチベーションをいかに維持するかがとかく課題となりがちですが、今回のプロジェクトでは頻繁にミーティングを重ね、緊密なコミュニケーションが図られ、『熱量』が衰えることがありませんでした」。一方の西澤医師は「アカデミア側のコンセプトを固め、ものづくりの皆さんに明確に伝えるのは僕の役割」と語る。両氏の言葉からは、それぞれの目線や歩調が合っていた様子が垣間見られ、それが医工連携として結実したように映る。

前多社長

くだんの装置は薬事承認など経て、来春の市場投入を目指している。さらに国内にとどまらず、東南アジアをはじめ海外の医療現場への普及も目指しており、ミャンマーでの実証事業も計画している。

保険適用への期待

排せつ障害に対するリハビリ療法の重要性に対する認識は近年、高まりつつあるものの、エビデンスの少なさネックとなり、診療報酬改定の議論の俎上(そじょう)に載せられてこなかったという。今回の装置を通じて知見が蓄積されれば、保険適用の対象となる可能性が高まり、多くの人が恩恵を受けられることが期待される。高齢化が加速する日本、そして医療水準の向上が急がれる新興国。医療現場の実情やこれを取り巻く社会の変化にきめ細かく対応できる開発力を兼ね備えた中小企業の果たす役割は大きい。

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