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雇用のカギを握る国内生産「300万台」、見せたトヨタの底力

新型車好調、コロナや半導体不足のリスクを最小限に
雇用のカギを握る国内生産「300万台」、見せたトヨタの底力

国内生産も挽回。SUV「ハリアー」の生産ライン(高岡工場=愛知県豊田市)

2021年3月期連結決算の業績予想を上方修正したトヨタ自動車。営業利益は昨年11月公表比7000億円増の2兆円になる見通しだ。業績をけん引するのが生産の回復だ。コロナ禍で20年の春先は大きな減産を強いられたが、生産現場などで新型コロナの感染対策を徹底しつつ、夏以降に巻き返した。20年暦年(1―12月)のトヨタ単体の世界生産は前年比12・6%減の790万9488台で着地したが、「かなり回復は進んでいる」(トヨタグループと取引の多い部品サプライヤー首脳)と実感する声も聞かれる。中国や国内などで生産の回復が加速している。

特に生産が好調だった地域は、いち早くコロナ禍から回復の動きを見せた中国だ。中国生産は、同9・5%増の153万7670台で前年実績を上回った。新型車の発売やイベントによる来店誘致など販売の好調が寄与した。中国での20年の販売台数は、同10・9%増の179万7487台と過去最高を更新している。

中国以外でも主要地域の北米や欧州で回復傾向が続く。20年の北米は前年実績を下回ったものの、20年7月以降は前年並みか前年超えに回復している。足元で特に米国はSUV「RAV4」や「カムリ」などによる販売増が下支えしている。欧州も20年は前年割れだったが、フランスでハイブリッド車(HV)が好調なことなどから、20年秋以降は堅調に推移している。

20年の国内生産も挽回した。同14・4%減の292万2605台となったが、トヨタが雇用や技術の維持に必要とする国内生産300万台規模を堅持した格好だ。グローバル市場の回復とともに、小型車「ヤリス」やSUV「ハリアー」などの新型車が好調で後押しした。

21年の国内生産は、新型車の投入などで300万台を回復する見通し。世界生産も国内生産の復調に加え、中国生産が引き続き堅調に推移することなどで、900万台を超えそうな勢いだ。コロナ禍などの厳しい事業環境が続く中でも、底力を見せそうだ。

コロナ禍に並ぶリスク要因である半導体不足の影響は、足元で限定的だ。自動車メーカーは11年の東日本大震災発生時にも半導体の供給不足に見舞われており、トヨタはこれを契機に事業継続計画(BCP)の高度化を進めてきた。

今回もトヨタの調達部門などがサプライヤーに出向き、品番ごとの在庫管理や生産・物流の状況などを詳細に分析。「1月上旬に国内で1万台を超える減産の話も浮上した」(部品メーカー首脳)が、緻密な調達計画の遂行で影響を最小限に抑えている。

加えて半導体のように生産のリードタイムが長い部品はトヨタの技術部とサプライヤーが連携し代替生産の事前検討や評価を実施。その上でサプライヤーに適正在庫として約4カ月分を確保してもらっている。実際、主要サプライヤーからも「半導体のリスク在庫をしっかり管理しているため、ただちに在庫が切れることはない」(松井靖デンソー経営役員)、「足元で影響は出ていない」(河井康司豊田自動織機経営役員)といった声が上がる。

足元では半導体不足のリスクが依然横たわるが、これまで築き上げた強固な供給網で影響を最小限にとどめ、今期の成果を完全回復への足がかりとする。


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