2000万台超の需要が消える自動車、「新常態」で生き残るのはトヨタと…
新型コロナウイルスの感染拡大で、自動車産業は世界的な需要蒸発に直面した。5月に入り、主要市場の中国や米国で販売復調の兆しも見え始めてきたものの、2020年の世界販売は前年比で2割前後の減少が予想される。その一方で、21年以降は緩やかなV字回復に向かうとの見方も出ている。自動車各社はコロナ後のニューノーマル(新常態)の動向を見極めつつ、回復シナリオを練る。
中国と米国の2大市場は、5月に入り販売回復が顕著になっている。中国汽車工業協会によると、4月の新車販売は前年同月比4・4%増の207万台と約2年ぶりに増加へと転じた。5月もプラスを維持する公算が大きく、日系メーカーではトヨタ自動車や日産自動車、マツダが前年実績を2カ月連続で上回る見通し。米国でも日系各社の下げ幅が縮小している。
ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表は、足元の需要動向について「ニューノーマルの最初の状態では、自動車需要は強含む」と指摘。コロナとの共生を図る上で「公共交通機関よりも自家用車に対するニーズが高まり、短期的に需要が戻ることは不思議ではない」と続ける。
ただ、コロナ第2波、第3波が来れば回復シナリオはたちまち崩れ、「20年の世界販売は7700万台を予想するが、さらに1000万台が下振れる」(遠藤功治SBI証券企業調査部長)可能性もあるという。短期でのV字回復は見込めるものの、中長期の動向は見通しづらいのが実情だ。
「コロナはリーマン・ショックよりも販売台数へのインパクトははるかに大きい」(豊田章男トヨタ自動車社長)との見立てもあり、コロナとの共生には財務体質や収益基盤の一層の強化が不可欠となる。
資金力の差は、コロナ後の覇権争いにも大きく影響しそう。その筆頭がCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる次世代技術の開発競争だ。新型コロナの感染予防の観点から、接触機会の低減や遠隔操作の普及促進につながるコネクテッドカー(つながる車)や自動運転車の需要拡大が期待できる。
業績悪化が避けられないなかでも、トヨタやホンダは今期の研究開発費を前年並みの水準に設定。「未来への種まきにアクセルを踏み続ける」(豊田社長)、「将来のさらなる成長に向けた仕込みを進める」(八郷隆弘ホンダ社長)と、次世代技術への投資継続を明言する。コロナ禍により市場動向が混沌(こんとん)とするなか、開発原資をいかに確保できるか。各社の地力の差がより鮮明になりそうだ。