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「有事の際に誠意ある交渉ありえない」。契約書のトラブル防ぐには?菊間千乃弁護士に聞く

『菊間弁護士と学ぶ! 契約のキホンのキホン』著者・菊間弁護士インタビュー
「有事の際に誠意ある交渉ありえない」。契約書のトラブル防ぐには?菊間千乃弁護士に聞く

菊間千乃氏

―執筆のきっかけは。

「契約に関するセミナーで弁護士になって初めて講演した際、契約担当になったばかりという若手参加者に『契約書は3行でめまいがする』と打ち明けられたことがきっかけ。民法は主語と述語を把握すれば必ず理解できるが、そもそも抵抗感のある人がいると知った。また同時期、出版社に声をかけられたこともある。このほどの民法改正で条文はより分かりやすくなったが、私が法律の勉強を始めたときのことを思い出しながら執筆した」

―どんな工夫をされましたか。

「初学者向けに書いたため改正前の内容には触れず、改正後の必要な部分だけを分かるようにした。また所々に図を挿入した。弁護士は依頼者の話を聞きながら相互関係を図にまとめる。話の中からどこに法律問題があるか把握するためだ。私も学生時代に債権者と債務者の違いを図にして理解した。解説の後に分かりやすくなった改正民法の原文も併記した」

―反響はありましたか。

「『取っ付きやすかった』と好評だった。異動で急に法務担当になったり、総務と兼務したりなど必要に駆られて民法を勉強する人に読んでもらいたい。本書ではすべての契約の基本になる民法の原文をすべて載せた。意外と原文を確認しないことが多いロースクール生の勉強にも効果的だろう」

―契約書でどんなトラブルがありますか。

「損害賠償など決めるべきことを決めていなかった事例が多い。契約書に『誠意をもって協定するものとする』とあっても、有事の際に誠意ある交渉などありえない。内容が薄く、契約書として意味をなさないものが後々トラブルになる」

―なぜそうしたことが起こるのですか。

「日本人の気質だと思うが、自分が相手を信用していないと思われることを避けるためだ。契約は結婚の時に離婚の話をするようなもの。だが決めるべきことを決めないのは次の世代に面倒を押しつけているのと同じ。1枚の契約書で救われることもあれば窮地に立たされることもある。契約書を作成する時は想像力を働かせ、最善を尽くしてほしい。これは将来に対する愛(情表現)だと思う」

―本書は索引が充実しています。

「通読せずとも、索引をもとに必要な部分を読めば対応できるようにした。契約書は法律知識があればよいという単純なものではない。“甲”と“乙”の主語・述語が一致しているか、期日が間違っていないかなど地道な確認が大切だ。また契約書を作成したり読んだりする際に疑問に感じたことを本書などで調べてみてほしい。相談時間が決まっている弁護士との会話がより円滑になるはずだ」

―契約担当者になった人に強調したいことは。

「なぜ契約書が大切かを書いたチャプター1は全部読んでほしい。契約書は主語と述語に注意しながらメリハリつけて読むこと。そして意外と期限切れになっているものがあるので注意すること。自社に不利な内容を見つけたとしても、更新時に変更するチャンスがある。今ねばることは未来の部下への愛だと考えてほしい」(渋谷拓海)

菊間千乃(きくま・ゆきの)氏 弁護士
95年(平7)早大法卒、同年フジテレビジョン入社、アナウンサーとして活躍。07年退社。10年司法試験合格、11年弁護士登録、12年松尾綜合法律事務所入所。東京都出身、48歳。
『菊間弁護士と学ぶ! 契約のキホンのキホン』(ぎょうせい 0120・953・431)

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