政府が推進する“脱はんこ”、一筋縄ではいかない企業の実情とは?
「はんこレス」を含めた契約書のデジタル化が注目されている。旗振り役となっている政府は脱はんこを掲げ、押印業務の廃止を促す。はんこレスや契約書のデジタル化を進めることで、承認や契約締結のスピードが上がるほか、管理業務の削減につながるメリットがある。一方、はんこや紙文化が根付いている企業は多く、一筋縄ではいかない。(川口拓洋)
「5年分を先取りした」―。契約書業務のデジタル化を支援するリーガルフォース(東京都千代田区)の角田望社長はこう指摘する。新型コロナウイルス感染症により在宅勤務が増えたことや対面の商談が以前より難しくなったなどの理由で契約書のデジタル化は加速した。大手機構部品メーカー首脳は「新型コロナで契約書などのデジタル化に拍車がかかっている」と明かす。
一方、「契約書や公的機関向け書類などは要求に応じて、はんこで対応している。デジタル対応できていないケースもある」と語るのはあるモーターメーカー。別のロボットシステムインテグレーターも「勤怠管理でもはんこを使っている。なかなかデジタル化が進まない」と吐露する。
リーガルフォースの角田社長は、はんこレスを含めた契約書のデジタル化には、自社と取引先の双方の受け入れ態勢が整うことが必要と説く。
自社の決済フローやガバナンス(企業統治)体制が紙を前提に整備されている場合、ここから変える必要がある。最初のステップとして仮想私設網(VPN)やネットワークというハード面の整備も欠かせない。「まだまだこれから」(大手機構部品メーカーの首脳)と語る企業は多い。一方、顧客が紙にこだわっていれば、電子契約に切り替えるのは容易でない。
とはいえ契約書をデジタル化するメリットは大きい。はんこレスばかりが注目されるが、それは「契約」に関わる業務の一部に過ぎない。内容を吟味する「審査」や契約書を保管・有効活用する「管理」の工程での利点は見逃せない。はんこレスだけにとらわれず、契約書に関わる業務を見直してデジタル化し、競争力強化につなげる取り組みが求められる。
日刊工業新聞2020年12月22日