漂着した海藻がアルギン酸とワインに?気づいたらチリでシナジーを生み出していた企業
キミカ(東京都中央区、笠原文善社長、03・3548・1941)は、未利用のままでは朽ち果てて二酸化炭素(CO2)に戻るだけの浜辺に打ち上げられた海藻を原料に、パンや麺の食感を向上させるなど食品や医薬、化粧品などに必要不可欠なアルギン酸を製造している。原料調達と製造を行っているチリでは現地の漁民から30年間にわたり海藻を買い取ることで、漁民の生活水準を向上させるとともに、海藻の乱獲抑制にも寄与する。
キミカが1980年代に進出したチリの沿岸は南極からの寒流が流れ込む海藻の宝庫。成長して岩から剥離して海岸に漂着する海藻を原料にすることは海洋資源の保護につながるが、自然を相手にしていることから、安定調達面で不安が残る。
そのため同社は漁民から継続的かつ安定的に海藻を買い取り、自らリスクを背負って在庫を確保している。チリ海藻産業協会の一員となり、海洋資源に関する調査活動にも協力する。調査結果は同国の水産管轄官庁に報告し、資源保全のための法制度整備に役立てられている。
【天然の乾燥工場】
製造工程にも配慮しており、アタカマ砂漠に面する同国北部という「天然の乾燥工場」(笠原社長)を利用し、電力を消費せずに海藻を乾燥・保管する。さらにチリプラントの周囲はワインの産地であることから、アルギン酸を抽出した後の海藻残渣(ざんさ)を土壌改良材にワイン用ブドウの栽培を始めた。23年にキミカブランドのワイン販売を目指す。
【可能性を追求】
これらの取り組みは「我々が海藻を安定的に調達するために行っただけだ」(同)が、結果としてチリの漁民の生活を豊かにするだけではなく、海洋資源の保護などシナジー(相乗効果)は大きい。そのため20年12月には政府が国連の持続可能な開発目標(SDGs)の優れた取り組みを表彰する「ジャパンSDGsアワード」の「SDGsパートナーシップ賞」を受賞した。
世界的に環境や健康に対する意識が高まる中、天然資源から製造されるアルギン酸は注目されている。注射剤でも使える高品質なアルギン酸などその可能性を追求する。