ソフトバンク、6年ぶりの社長交代。異色の経歴の宮川氏は孫さんの厚い信頼に応えられるか

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ソフトバンク、6年ぶり社長交代。宮内社長(左)と宮川次期社長(右)(4日=東京都内)

ソフトバンクが6年ぶりの社長交代に踏み切る。次期社長の宮川潤一副社長は技術に明るく、指導力も備える。ただ親会社のソフトバンクグループ(SBG)が投資事業に傾注する中、ソフトバンクは堅実な稼ぎ手としての側面が強まり、競合に先駆けて大胆な施策を打つかつての印象は薄れた。携帯通信料の値下げが進む中、収益源の多様化の重要性は増す。宮川氏は従業員のチャレンジ精神を喚起し、自社をより強くできるかが試される。(斎藤弘和)

宮川次期社長―技術と粘り 孫氏の信頼厚く 「挑戦、進化し続ける企業に」

技術力、粘り強さ、リーダーシップ―。宮内謙ソフトバンク社長からバトンを受け、4月1日付で就任する宮川氏の持ち味は、多様な言葉で表せる。

宮川氏の経歴は異色だ。実家は愛知県犬山市の寺。父親の願いもあり、花園大学文学部仏教学科で学んだ。学費を稼ぐためにバーで働き、来店する財界人の姿を見てビジネスへの思いを強くした。大学卒業後は会計事務所勤務などを経て、インターネット接続サービス事業を起業。名古屋めたりっく通信(現ソフトバンク)の社長をしていた頃、孫正義氏(現SBG会長兼社長)に誘われてソフトバンクに参加した。

以降、ソフトバンクの技術担当役員を長く務めてきた。孫氏からの信頼の厚さは、米携帯電話大手スプリント(現TモバイルUS)の立て直しを託されたことに見て取れる。

ソフトバンクは2013年7月にスプリントを買収したものの、同社は米ベライゾン・ワイヤレスや米AT&Tに押されて厳しい状況にあった。米国へ赴いた宮川氏は現地の従業員をまとめることに苦労し、半年間で体重が10キログラム以上も減少した。

それでも自ら度々酒席を設けるなどして相互理解を図りつつ、通信品質向上やコスト削減を遂行。収益改善につなげた。14年度までスプリントの営業損益は赤字に沈んでいたが、16年度には18億ドル(約2000億円)の黒字を達成した。

近年は新規事業もけん引しており、宮内氏の後継者に指名されたことは順当と言える。4日会見した宮川氏は「テクノロジーを羅針盤に新しい常識をつくることが私のテーマ。挑戦、進化をし続ける企業にしていきたい」と意気込んだ。

だが最近のソフトバンクは、“攻め”の企業文化が薄れている印象が否めない。例えば20年後半の携帯通信料金引き下げ競争で主導権を握ったのは、NTTドコモだった。ドコモの新プラン「アハモ」を前にして、ソフトバンクは類似のプランを遅れて発表するしかなかった。

かつて孫氏は、「月額基本料980円」のシンプルな「ホワイトプラン」で顧客を急拡大した。一方で昨今の携帯通信市場は大手3社の寡占が続き、積極的に値下げをする必要性は乏しかった。またSBGがリスクの高い投資事業に力を注ぐ中、ソフトバンクは堅実に収益を上げる必要があったとも言える。こうした事情はあるにせよ、直近のソフトバンクの“後出しじゃんけん”には物足りなさが残る。

ドコモはNTTによる完全子会社化を機に攻勢を強めており、通信料金以外の面でもソフトバンクが後手に回ってしまう可能性はある。「挑戦が進化につながることを常々、孫(SBG会長兼社長)から口酸っぱく言われ、実行してきた。私も次の代までそう言い続けたい。どんなに(会社が)大きくなってもベンチャーであり続ける」と決意を示す宮川氏が、今後どれだけ自社に勢いをつけられるかが問われる。

ZHD・LINE、3月に統合完了 収益多様化―相乗効果の迅速発揮カギ

ZHDとLINEの統合会見(19年11月)

宮川氏の社長就任後の課題は多い。その一つが、傘下のZホールディングス(HD)とLINEの経営統合だ。統合は3月に完了予定であるものの、その後、相乗効果の迅速な発揮が求められる。

だが、統合の有効性自体を疑問視する意見も聞かれる。孫SBG会長兼社長と長年交流してきた金融大手の幹部は「なぜLINEを買ったのか、さっぱり分からない。金融事業に関しては、LINEの持っているもので利益が出るものがあるかというと、全くない」と断言する。

LINEはスマートフォン決済「LINEペイ」や、野村HDとの共同事業である「LINE証券」といった複数の金融関連サービスを展開してきた。だが金融をはじめとするLINEの「戦略事業」セグメントの営業損益は、19年12月期に665億円の赤字。LINEペイが他のスマホ決済との消耗戦を強いられたことなどが響いた。LINEの連結決算でも同期は営業赤字に沈んでいる。

対話アプリケーション(応用ソフト)「LINE」のユーザーが国内で約8600万人(20年12月時点)いることは強みだが、多くの利用者は「金融商品を買う人ではないから、この惨状になっている」(前出の金融大手幹部)。LINEが顧客基盤を生かしきれていない側面はあったと言える。

ZHDは21年に自社の傘下、または株式を持つ金融事業会社6社の社名や商材名を「PayPay(ペイペイ)」ブランドに統一する。スマホ決済「PayPay」の利用者が1月に3500万人を突破しており、他の金融関連商材とも連携させていく狙いだ。

非通信事業の重要性が高まる(スマホ決済「ペイペイ」)

また、宮内ソフトバンク社長はZHDとLINEの相乗効果について「日本最大規模の顧客接点を持てる。このデータを企業や自治体とリンクさせて、日本全体のデジタル化を展開する」と語る。しかし成功事例を思うように蓄積できなかった場合は、経営統合の意義が問われかねない。

それでもソフトバンクにとってZHDは重要だ。携帯通信料金低廉化の潮流が強まる中では、収益確保のため非通信事業の拡大が求められる。

19年度にソフトバンクの連結売上高に占める消費者向け通信事業の割合は、約55%だった。NTTドコモの約79%に比べると、収益源の多様化は進んでいる。ただドコモやKDDIもスマホ決済などで猛追する構え。ソフトバンクは追われる立場としての重圧もある。

宮川氏には自身の経験や知見を生かし、新規の事業や商材の創出を加速することが期待される。第5世代通信(5G)ならではのコンテンツやサービスを充実させていくことも不可欠だ。そうした分野で、どれだけ存在感を高めていけるのか。「今までの通信会社とは少し違った構造の会社にならないといけない」と語る宮川氏の手腕に注目が集まる。

日刊工業新聞2020年2月5日

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