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地銀は社会的責任投融資に本気になれるか

活溌化する再編統合、「経営資源の余力を積極的に地元企業の支援のために」(麻生大臣)
地銀は社会的責任投融資に本気になれるか

新潟市の萬代橋

 麻生太郎金融相は衆院財務金融委員会で、第四銀行と北越銀行による2018年4月の経営統合が地元経済に与える影響を問われ、取引先企業への助言や目利きの向上など、「顧客本位で良いサービスができる可能性はあると思っている」と話した。その上で地方銀行は、「経営資源の余力を積極的に地元企業の支援のために役立つ形で、銀行がそうした姿勢を持つかどうかだ」と語った。

 一方で麻生氏は地方銀行の経営統合効果については地域差が生じうるとの見方を示した。「経営者の能力によって差が出てくるのが一番気になる。(第四・北越統合により)それなりの仕事ができる形になるのでは」と期待感を示した。

日刊工業新聞2017年4月17日



第四・北越銀統合へ


 第四銀行と北越銀行は5日、経営統合に向けて協議・検討を進めることで基本合意したと発表した。2018年4月をめどに持ち株会社を設立し、20年に両行が合併する計画。経営資源やノウハウの相互補完によって、市場環境の変化に応じた多様な資産運用商品の開発や資金調達手法の拡充、コンサルティング機能の向上などの相乗効果を引き出す。

 設立する持ち株会社「第四北越フィナンシャルグループ」は本店所在地を新潟県長岡市に、主な本社機能を新潟市に置く。会長には北越銀の荒城哲頭取、社長には第四銀の並木富士雄頭取が就く予定。

 会見で荒城北越銀頭取は「金融仲介機能を安定的に維持できれば新潟県にとって強みになる」と強調。並木第四銀頭取は「両行が力を合わせて、金融システムの安定化や地域経済の発展に貢献していく企業理念を形にしていく」と語った。

日刊工業新聞2017年4月6日



十六銀、地域課題に主体的に関与へ


 十六銀行は2020年3月期に譲渡性預金含む預金と貸出金の合計(平均残高)を10兆円(16年4―12月期約9兆3221億円)に伸ばす18年3月期から3カ年の中期経営計画をまとめた。現中計の「徹底したお客さま志向」に磨きをかける。地域経済成長への貢献と安定・永続性ある収益構造が好循環するビジネスモデルへの変革を図る。

 マイナス金利政策による利ざや縮小など取り巻く経営環境は厳しさを増している。そのため有価証券運用力の向上や多様な金融手法に取り組むほか、専門人材も確保するなど資金運用力を強化する。

 また基本戦略には、顧客との接点拡大と期待を上回る提案力の発揮を挙げた。地域開発プロジェクトへの積極的な参画や地域企業支援を通じた経済の活性化を図るなど地域課題に主体的に関与するほか、地域マーケットに応じたブロック運営を行う。岐阜県を基盤に、愛知県への攻勢を一段と強める。

日刊工業新聞2017年2月24日



秋田の風、秋田のために


昨年12月に稼働した風の松原自然エネルギーの風車(能代市)

 「秋田の風を、秋田のために生かす」。風力発電事業にかける秋田県の企業経営者たちの思いだ。強い風が吹く同県には全国トップ級の190基の風車が稼働するが、ほとんどを県外企業が所有し、売電収入の利益が県外へ流出している。自ら風車の建設に乗りだした県内企業は、風がもたらす富を秋田にとどめ、風力を地域経済再浮上の起爆剤にする。

 1日、能代市で風車17基が運転を始めた。地元9社と市が出資する「風の松原自然エネルギー」(能代市)が運営する風力発電だ。

 9社は風車の素人ばかり。その1社の大森建設(同)は約15年前に一度、県外企業の風車の基礎工事に携わった。同社の大森三四郎社長は「厄介者の風で発電事業ができる。いいなと思ったが、高嶺の花だった」と振り返る。風力発電事業は投資額が大きく、事業は長期に及ぶことから投資回収リスクがある。地元企業が手を出せる事業でなかった。

 転機は2012年7月、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の開始だった。20年間、発電した電力を同じ価格で買い取ってもらえるため参入障壁が下がった。早速、県が風力発電事業者に貸し出す県有地の抽選に応募。高倍率だったが当選した。

 喜びつつも「地元の風を1社で独占していいのか」と思い、8社と市に呼びかけて風の松原自然エネルギーを設立。能代市民からも出資を募ろうと、窓口となるファンドを作った。銀行からも資金を調達し、事業費160億円を用意できた。

 風車は日立パワーソリューションズ(茨城県日立市)が建設し、電力会社への売電で得た利益は出資する9社と市、市民で分け合う。「地元の風を地元に生かせる。20年間の発電事業は新入社員のためにもなる」と目を細める。売電は経営の支えとなり、新入社員の将来への不安を取り払う。風力発電は次世代への投資だ。

 男鹿市でも県内企業による風力発電が始まった。石材加工・施工業の寒風(男鹿市)と4社が出資する「風の王国・男鹿」の風車4基が11月、稼働した。

 計画当初の12年、資本金は300万円だった。寒風の鈴木博常務は「本当に地元だけでやれるのか」と不安だった。次第に出資者が増え、資本金を4000万円に増額できた。銀行からも資金を借り、運転にこぎ着けた。

 売電収入があっても「本業をしっかりやりながら納税し、地域に貢献する」と語る。売電も含めた税金が住民サービスに回って地域に活力が生まれれば、地元企業の仕事も増える。勢い良く回る風車で地元に“富の循環”を作る。

 秋田県は全国最速で人口減少が進む。ここ10年間は年1万人以上のペースで減り、100万人割れが目前。地域経済を支えた非鉄鉱業や石油産業が撤退や縮小し、県内総生産は東北6県で最低、全国でも下位に沈む。
               

貸し先が細る一方だと地域のお金の流れが滞る


 地元の金融機関も危機感を抱く。貸し先が細る一方だと地域のお金の流れが滞り、地盤沈下に拍車がかかる。停滞から抜け出そうと、地元銀行も巨額資金が必要な風力へと舵を切った。

 北都銀行が音頭をとって12年、風力発電専業のウェンティ・ジャパン(秋田市)を立ち上げた。同社の佐藤裕之社長は「20年前、秋田に戻った時、疲弊ぶりにがくぜんとした」と振り返る。

 佐藤社長は東京でIRコンサルタントをしていたが、自分の手で事業をしたくなって実家の羽後設備に入社した。08年、風力発電を検討したが「費用がかかり、非現実的」と思いとどまった。

 北都銀の町田睿(さとる)会長もUターン組だ。都市銀行、他県の地銀を経て09年に北都銀へ移ると、約40年ぶりの故郷は危機感がない「豊かさに慣れきったゆでガエル」だった。風力の可能性を知り「風は秋田の資源。地方再生に活用したい」と考えた。佐藤氏の思いと重なり、ウェンティ・ジャパンを設立した。

 同社は県外企業と連携しながら不足する知見を補う。ただし、県外企業に事業へ出資してもらっても「地元がメジャー(主要)であることが、最大のこだわり」(佐藤社長)だ。潟上市の22基をはじめ40基近い風車建設を計画する。

 「いずれ部品製造のクラスターを秋田に作りたい」と話す。風車には自動車と同じ2万点の部品が使われる。風車の設置が増えると、部品を建設地近くで生産する必要性が出てくる。交換部品の需要も定期的に発生するので、地元製造業の出番がやってくる。

 秋田銀行は13年、県内5社と風力発電専業の「A―WIND ENERGY」(秋田市)を設立した。同行出身の千田邦宏社長は「秋田の気候は太陽光発電よりも風力に適している。地元資本だけで会社をやりたかった」と経緯を話す。また「5社には若者の就職の場を作りたい強い思いがあるはずだ。何かしらの形で波及すればいい」と願う。

日刊工業新聞2016年12月26日「深層断面」から抜粋


※内容、肩書は当時のもの
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
昨今は、金融機関にも社会的責任投融資が求められる。銀行の場合は、株式会社ではあるが、社会の公器との自覚を持って利益を地域社会に還元する姿勢が一層必要だろう。

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