日本郵船、ビッグデータでコンテナ船の運賃算出
事業統合への地ならし!?
日本郵船はビッグデータ(大量データ)を活用して、コンテナ船の短期契約の運賃を算出するシステムを開発した。コンテナ船事業を統括するシンガポールの現地法人で近く運用を始める。コンテナ船の運賃は中国の景気減速などで低迷が続き、海運各社の経営を圧迫している。適正な運賃を体系化するシステムを導入し、業務の効率化と収益性を向上する。
日本郵船がウェザーニューズ、構造計画研究所と共同出資し、シンガポールで設立したシステム会社「シンフォニー・クリエイティブ・ソリューションズ」が開発した。航路や運航時期、荷揚げや荷下ろしの港、貨物の内容などを入力すると、過去のビッグデータから運賃を算出する。
コンテナ船の随時契約である「スポット運賃」は、市況をベースに個別に算出するものの、市況以外の要素も加味する必要があり、運賃を出すまでに手間や時間がかかっていた。また、担当者や時期によってばらつきもあった。短期契約はコンテナ船全体の半分を占めるが、長期契約に比べて収益性が低い。このため、運賃算出の業務の効率化が求められている。
新たに構築したシステムは過去のデータを基に契約内容を入力すると、すぐに運賃を算出することが可能となり、取引先へ提案が迅速になる。また、運賃算出の精度が高まることで、より競争力のある価格を提示することができるようになる。
シンフォニー・クリエイティブ・ソリューションズは、システムの運用を通じ、運賃のデータをさらに蓄積して、算出の精度などを高める。
日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社は、2017年4月に主力のコンテナ船事業の合弁会社を設立し、事業を統合する。統合の協議が始まったのは今年春ごろ。3社は17年4月にスタートする新アライアンス「ザ・アライアンス」で、同じアライアンスに加盟することになっている。この協議を通じ、一部の路線の共同運航から、事業統合へ話が広がっていった。
日本の3社が同じアライアンスに加盟することになった背景には、世界最大手でデンマークのA・P・モラー・マースクや、世界2位でスイスのMSC、世界3位の仏CMA CGMなどに先手を打たれたため、再編の波に乗り遅れたことがあった。
ただ、危機感を共有するには十分に厳しい環境が続いていた。コンテナ船の運賃は欧州の通貨危機や中国経済の成長鈍化などを受けて、年々下落。15年に約6年ぶりに最安値を更新すると、その後も下がり続け、春にはアジア―欧州間の20フィートコンテナ1個当たりの運賃が300ドルと、最安値に落ち込んだ。
大手のA・P・モラー・マースクやMSC、CMA CGMなどの業績が軒並み赤字に転落するなど、業界全体が未曾有の状態に陥っていた。
コンテナ船の事業規模がマースクの5分の1程度の日本の3社にとっては、さらに厳しい状況。日本郵船は16年4―9月期連結決算において、特別損失を約1950億円計上すると発表。17年3月期の業績見通しでは、2450億円の最終赤字を見込む。川崎汽船もとも、創業以来最大の赤字に転落することになる。
厳しい経営環境の中で、世界の海運業界では合従連衡が急速に進み、15年末にはCMA CGMが、シンガポールのAPLを買収。その後、中国の国有企業同士が合併した。
独ハパックロイドも、年内にクウェートのユナイテッド・アラブ・シッピング・カンパニー(UASC)を買収する方向で、交渉を進めている。こうした中、8月には、韓国の韓進海運が経営破綻。運航中の船が1カ月以上、海上に停留する状態に陥り、事業統合の決定打となったとみられる。
食料品や衣料品などの消費財や、電子部品などを運ぶコンテナ船は、A・P・モラー・マースクやMSC、CMA CGMが、スケールメリットを生かして、運賃をコントロールする体力勝負の船種だ。
3社が並び立つ日本は、コンテナ船のランキングで、商船三井が11位、日本郵船が14位、川崎汽船が16位。単独では競争力があるとはいえず、厳しい環境の中で生き残るには難しくなっていた。
3社が事業統合することで、シェア7%、順位が6位まで上昇する。川崎汽船の村上英三社長は「スケールメリットを追求したい」と、規模の拡大に主眼を置いた事業統合であることを強調する。
3社のコンテナ船の16年3月期の売上高は、商船三井が7191億円、日本郵船が7063億円、川崎汽船が6149億円。各社の売り上げの3―4割を占める基幹事業だ。このため、統合会社の売上高は2兆円と、最大手の日本郵船や商船三井と同水準となる。
3社では、現在、各社が持っている契約の中で、利益率の高いものに切り替えるなど、「ベストプラクティス」を融合させることで、年間で約1100億円の統合効果を見込む。また、海外のコンテナターミナルも統合し、運営を効率化する。
現在は、収益力が大きく下がっているものの、3社にとって主力の事業であるコンテナ船の事業を切り離すには、大きな経営判断が必要だった。日本郵船の内藤忠顕社長は「同じ思いを共有できる3社だからできた」と話す。
3社の大きな経営判断で実現した事業統合だが、18年4月の事業開始に向け、システムの統合や人員の配置、コンテナターミナルの統廃合など、課題も山積みだ。3社のコンテナ船の拠点は、日本郵船がシンガポール、商船三井が香港、川崎汽船が日本と分かれている。世界に分散している各社の拠点を、どこに統合するのかが、今後の事業戦略の肝となる。
また、事業統合により、海外のコンテナターミナルを統廃合することになるが、例えば、米ロサンゼルスには、3社それぞれが、大規模なコンテナターミナルを所有している。ここ数年では、自動化に対応するため、設備投資も進めてきた。これらの扱いをどうするのか、といったことも今後の協議で乗り越えるべきハードルとなる。
内藤社長は「主張するところは主張し、引っ込めるところは引っ込める、といった、日本的な話し合いでうまくやっていきたい」という。
海運業界は、外国の会社間でのM&A(合併・買収)が主流となる中で、日本の3社は、日本同士での連携にこだわった。日本的な話し合いと、日本流の商慣習で、欧州の列強と渡り合えるか、今後の取り組みが重要となる。
(文=高屋優理)
日本郵船がウェザーニューズ、構造計画研究所と共同出資し、シンガポールで設立したシステム会社「シンフォニー・クリエイティブ・ソリューションズ」が開発した。航路や運航時期、荷揚げや荷下ろしの港、貨物の内容などを入力すると、過去のビッグデータから運賃を算出する。
コンテナ船の随時契約である「スポット運賃」は、市況をベースに個別に算出するものの、市況以外の要素も加味する必要があり、運賃を出すまでに手間や時間がかかっていた。また、担当者や時期によってばらつきもあった。短期契約はコンテナ船全体の半分を占めるが、長期契約に比べて収益性が低い。このため、運賃算出の業務の効率化が求められている。
新たに構築したシステムは過去のデータを基に契約内容を入力すると、すぐに運賃を算出することが可能となり、取引先へ提案が迅速になる。また、運賃算出の精度が高まることで、より競争力のある価格を提示することができるようになる。
シンフォニー・クリエイティブ・ソリューションズは、システムの運用を通じ、運賃のデータをさらに蓄積して、算出の精度などを高める。
日刊工業新聞2016年11月4日
どうなる3社事業統合
日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社は、2017年4月に主力のコンテナ船事業の合弁会社を設立し、事業を統合する。統合の協議が始まったのは今年春ごろ。3社は17年4月にスタートする新アライアンス「ザ・アライアンス」で、同じアライアンスに加盟することになっている。この協議を通じ、一部の路線の共同運航から、事業統合へ話が広がっていった。
日本の3社が同じアライアンスに加盟することになった背景には、世界最大手でデンマークのA・P・モラー・マースクや、世界2位でスイスのMSC、世界3位の仏CMA CGMなどに先手を打たれたため、再編の波に乗り遅れたことがあった。
ただ、危機感を共有するには十分に厳しい環境が続いていた。コンテナ船の運賃は欧州の通貨危機や中国経済の成長鈍化などを受けて、年々下落。15年に約6年ぶりに最安値を更新すると、その後も下がり続け、春にはアジア―欧州間の20フィートコンテナ1個当たりの運賃が300ドルと、最安値に落ち込んだ。
大手のA・P・モラー・マースクやMSC、CMA CGMなどの業績が軒並み赤字に転落するなど、業界全体が未曾有の状態に陥っていた。
コンテナ船の事業規模がマースクの5分の1程度の日本の3社にとっては、さらに厳しい状況。日本郵船は16年4―9月期連結決算において、特別損失を約1950億円計上すると発表。17年3月期の業績見通しでは、2450億円の最終赤字を見込む。川崎汽船もとも、創業以来最大の赤字に転落することになる。
厳しい経営環境の中で、世界の海運業界では合従連衡が急速に進み、15年末にはCMA CGMが、シンガポールのAPLを買収。その後、中国の国有企業同士が合併した。
独ハパックロイドも、年内にクウェートのユナイテッド・アラブ・シッピング・カンパニー(UASC)を買収する方向で、交渉を進めている。こうした中、8月には、韓国の韓進海運が経営破綻。運航中の船が1カ月以上、海上に停留する状態に陥り、事業統合の決定打となったとみられる。
食料品や衣料品などの消費財や、電子部品などを運ぶコンテナ船は、A・P・モラー・マースクやMSC、CMA CGMが、スケールメリットを生かして、運賃をコントロールする体力勝負の船種だ。
3社が並び立つ日本は、コンテナ船のランキングで、商船三井が11位、日本郵船が14位、川崎汽船が16位。単独では競争力があるとはいえず、厳しい環境の中で生き残るには難しくなっていた。
3社が事業統合することで、シェア7%、順位が6位まで上昇する。川崎汽船の村上英三社長は「スケールメリットを追求したい」と、規模の拡大に主眼を置いた事業統合であることを強調する。
日本的な話し合いで欧州の列強と渡り合えるか
3社のコンテナ船の16年3月期の売上高は、商船三井が7191億円、日本郵船が7063億円、川崎汽船が6149億円。各社の売り上げの3―4割を占める基幹事業だ。このため、統合会社の売上高は2兆円と、最大手の日本郵船や商船三井と同水準となる。
3社では、現在、各社が持っている契約の中で、利益率の高いものに切り替えるなど、「ベストプラクティス」を融合させることで、年間で約1100億円の統合効果を見込む。また、海外のコンテナターミナルも統合し、運営を効率化する。
現在は、収益力が大きく下がっているものの、3社にとって主力の事業であるコンテナ船の事業を切り離すには、大きな経営判断が必要だった。日本郵船の内藤忠顕社長は「同じ思いを共有できる3社だからできた」と話す。
3社の大きな経営判断で実現した事業統合だが、18年4月の事業開始に向け、システムの統合や人員の配置、コンテナターミナルの統廃合など、課題も山積みだ。3社のコンテナ船の拠点は、日本郵船がシンガポール、商船三井が香港、川崎汽船が日本と分かれている。世界に分散している各社の拠点を、どこに統合するのかが、今後の事業戦略の肝となる。
また、事業統合により、海外のコンテナターミナルを統廃合することになるが、例えば、米ロサンゼルスには、3社それぞれが、大規模なコンテナターミナルを所有している。ここ数年では、自動化に対応するため、設備投資も進めてきた。これらの扱いをどうするのか、といったことも今後の協議で乗り越えるべきハードルとなる。
内藤社長は「主張するところは主張し、引っ込めるところは引っ込める、といった、日本的な話し合いでうまくやっていきたい」という。
海運業界は、外国の会社間でのM&A(合併・買収)が主流となる中で、日本の3社は、日本同士での連携にこだわった。日本的な話し合いと、日本流の商慣習で、欧州の列強と渡り合えるか、今後の取り組みが重要となる。
(文=高屋優理)
日刊工業新聞2016年11月1日「深層断面」一部修正