コロナ禍で医療業の活動は大きく低下。データを基に考える
2020年より世界的に大流行した新型コロナウイルス感染症(以下、「感染症」という)は、日本の医療業にも大きな影響を及ぼしている。2020年秋から再び感染が拡大し、2021年に入り再び緊急事態宣言も発出されたが、このコロナ禍により、2020年、医療業の活動にはどのような変化が生じていたのだろうか。
歯科の回復は早かった
医療業の活動について、第3次産業活動指数から医療業指数の動向をみてみると、従来、内訳の「病院・一般診療所」と「歯科診療所」ともに安定的な上昇傾向が続いてきたが、2020年に入り、この傾向は一変した。 下のグラフから、「歯科診療所」は「病院・一般診療所」に比べて、影響が出始めたのが2020年3月からと遅く、指数の低下幅は大きかったことがわかる。しかし、6月以降は「病院・一般診療所」より早く回復している。 他方、「病院・一般診療所」は2020年1月から低下し始め、6月以降回復してきているものの、11月の時点でも感染症の影響が出る前の活動水準まで戻っていない。
外来受診の影響大きく
「病院・一般診療所活動指数」は診療報酬支払確定状況(社会保険診療報酬支払基金)の医科診療の点数を元データとして使用している。これらをさらに入院と入院外に分けてみてみる。診療報酬の点数については、1点=10円として金額換算する。
下のグラフは、入院と入院外について、各月の金額、日数(患者の延べ受診日数)、件数(患者が受診した延べ医療機関数※)の動きの前年同月比伸び率を比較したものである。2020年春の感染拡大時には、いずれも入院より入院外の方が大きく落ち込み、その後の影響も長引いている。
入院については、4、5月には件数が最も落ち込んだが、その後の回復も早く、9月以降、前年同月比もプラスとなった。春の感染拡大時は、不急の手術の延期など入院機会の減少があったようだが、その後戻ってきたようだ。
また、10月までの時点では件数と金額は前年の水準まで戻ったものの、日数は前年の水準まで戻っていない。夏以降は、患者の入院や医療行為が徐々に戻ってきたものの、入院日数は短期化しているとも考えられる。
入院外については、2020年春は金額、日数、件数ともに低下幅が大きかったものの、金額は入院より1か月遅れた10月に前年の水準に戻った。ただ日数と件数は、10月の時点ではまだ前年より少なく、回復は遅れている。
病院での感染を恐れた受診控えや、マスクなどの予防策による感染症全般への罹患の減少、健康診断の延期などにより、夏以降も、患者の通院頻度は戻りつつあるとはいえ、前年より減少が続いていると考えられる。
※「件数」は、医療機関が作成する診療報酬明細書の枚数のことで、患者 1 人につき医療機関毎に毎月 1 枚作成することになっている。
診療所は診療科により明暗 外科と内科は回復途上
医療法においては、20床以上の病床を有するものを「病院」、病床を有さないもの又は19床以下の病床を有するものを「診療所」としている。
診療所の診療科別件数においては、2020年3月以降、いずれも低下したが、特に4、5月の前年同月比の低下幅が大きかったのは、小児科と耳鼻いんこう(咽喉)科だった。
その後、いずれも回復の動きがみられるものの、小児科、耳鼻いんこう科に加え、外科、内科は10月時点でもマイナス10%前後と厳しい状況にあるようだ。ただし、小児科と耳鼻いんこう科は、9月のそれぞれマイナス30%、マイナス20%から10月は急回復している。
このように、2020年は感染症の拡大により、医療業の活動は大きく低下したが、10月までの時点では、一部回復してきた様子が見られる。ただ、2020年秋より感染症の国内感染者数は再び急増し、2021年1月には緊急事態宣言が再度発出されたことから、直近では医療業の活動も再び低下している可能性がある。
現下の状況では、まず感染症の拡大防止やそれ以外の疾患を持つ患者も含めた医療体制の維持が重要であることはもちろんだが、コロナ禍の影響は医療業全体にも広く及んでおり、病院などの経営にも影響があると考えられる。医療業の動向も引き続き注意してみていくことが重要だ。