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東京・千葉・横浜・さいたま...ワクチン接種準備に奔走する自治体の危機感

緊急事態宣言下の首都圏

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、国内でワクチン接種の準備が進んでいる。政府は米製薬大手ファイザーとワクチン供給で正式契約を結ぶなど、全体で3億1000万回分のワクチンを確保する見込み。一方、実際に接種を実施する市町村では場所や機材の確保など体制づくりに追われている。安全かつ速やかな接種に向け、首都圏の自治体の取り組みを追った。(横浜・八家宏太、さいたま・阿部未沙子、渋谷拓海、市野創士、編集委員・米今真一郎)

横浜市・川崎市 専任チーム/集団接種訓練

横浜市は20日、新型コロナ感染症ワクチン接種の準備のため専任チーム「ワクチン接種調整等担当」を新設した。ワクチン担当者を従来の19人から53人に増員、接種に向けた体制を強化する。市の担当者は「全市民が対象で(ワクチンを)2回打つというのは、大がかりで前例がない。相応の体制を用意することになった」と語る。

第1弾はファイザー製ワクチンの接種を想定。市民の在住地域で接種できる場所や機材の確保、副作用などで予想される問い合わせへの対応など準備を進める。

川崎市は1日に総員9人の「ワクチン調整担当」を設置。27日には厚生労働省とともに川崎市立看護短期大学体育館(川崎市幸区)でファイザーのワクチン使用を想定した集団接種会場の運営訓練を実施する。

会場の設営や受け付け、接種、ワクチンの取り扱いなどを訓練し、ワクチンが使用可能になった段階で速やかに接種できる体制作りを進める。また、訓練で得た知見は厚労省を通じて全国の自治体に共有される。

市の担当者によると、訓練を実施する集団接種のほか、インフルエンザワクチン接種のように病院やクリニックでの個別接種、地域の高齢者などを対象にした施設での巡回接種なども検討するという。それぞれの接種に必要な機材やワクチン管理手法など課題を洗い出していく。

画像はイメージ

さいたま市・埼玉県川口市 保健所に対策室/人員拡充

さいたま市は、保健福祉局の保健所に「新型コロナウイルスワクチン対策室」を20日付で新設した。人員は9人。内訳は保健師の室長1人と室長補佐1人、薬剤師1人と事務担当者6人。

ワクチン接種券の印刷・発送や市民からの問い合わせに応じるコールセンターの設置、接種会場の確保などを行う。同市の人口は約130万人で65歳以上の高齢者は約30万人。市では接種を円滑に実施するため、接種会場で必要となる人の手配が課題と見る。

また、埼玉県川口市では接種体制を整備するため、1日付で保健部保健総務課に事務職員を3人増員した。今後も増員を検討しているという。「タイトなスケジュールにどう対応していくかが課題」(保健総務課担当者)となる。

千葉市 相談窓口開設

千葉市は保健福祉局医療衛生部医療政策課内に「新型コロナウイルスワクチン接種推進室」を15日設置した。室長、室長補佐ら7人体制で始動し、今後の事業の進捗状況に応じ、増員も検討する。市では3月末から高齢者を対象とする接種を確実に開始したい考えで、市内医療機関との調整や相談窓口の整備、接種に必要なクーポン券の印刷・発送など準備を進める方針だ。

東京都墨田区 コールセンター

東京都墨田区は専門部署「新型コロナウイルス予防接種調整担当」を2020年12月1日に発足した。人員は5人で、接種券の印刷やコールセンター設置、接種会場の確保、医師会との調整などの業務を担う。区施設の利用や医療機関への協力などで接種会場を確保する。医師会、区役所職員への協力を要請し接種会場での人員確保に努めるが、人員確保、各会場のワクチン配分を課題としている。

東京都練馬区・八王子市 冷凍保存、小分けに課題

自治体で準備が進む一方、課題も浮かび上がる。東京都練馬区の住民接種担当課の担当者は「ワクチンをどのような保存方法でどの程度まで小分けできるか、国が明らかにするまで接種場所の手配などが進まない」と指摘する。

東京都を通じて照会しているが19日時点で返答はないという。ワクチンは超低温管理が必要で冷凍庫なら長期保存ができるが、ドライアイスによる保管では10日程度で使い切らなければならない。加えて、国はワクチン供給の最小単位を1000個としており、学校など大型施設を接種場所とした場合に区が適切とする1回200個と開きがある。保存方法との兼ね合いもあり、必要な施設数や借り上げ期間が見通せないでいる。また接種場所の確保で、区の打診を渋るクリニックもあるという。PCR検査体制を構築したことによりスペースがなくなったことなどが主な理由だ。区では冷凍庫が不足する事態に備え、購入費を21年度予算に計上することを検討している。

東京都八王子市は、冷凍庫が不足する事態を想定し市内業者とリース契約を交わす方向で調整に入った。接種対象者が一般住民に広がる7月ごろには、市内の小中学校など108施設を接種場所に想定しており、日曜日などに集団接種ができる体制を構築することを検討している。なお、医療従事者向けの接種は医療機関で2月下旬から行うが、担当者は「全2回の接種を1―2カ月で終えられるか分からない」と見る。住民単位で接種する国の方針について「法人単位の方が効率的かもしれないが従うしかない」と心境を吐露する。

ワクチン保存に冷凍庫は欠かせない(PHCホールディングス提供)

【ワクチン流通の仕組み】

新型コロナワクチンの接種は、国(厚生労働省)が主導し、市町村が住民に実施する。この中で、市町村よりも広域の視点で市町村を支援するのが都道府県の役割だ。

例えば、ワクチンは1回分ではなく複数回分をバイアル(専用容器)で供給されるため、会場ごとの接種可能人数を多くする必要がある。この調整は市町村だけでは難しい。

また、接種は医師や看護師ら、感染者や感染の疑われる人(疑い患者)に頻繁に接する人を最優先に「医療従事者向け先行接種」として始まるが、その後は救急隊員や保健所職員らに「医療従事者向け優先接種」として実施する。この優先接種の調整は都道府県が担う。

ワクチンの量を公平に確保することも重要。医療機関と卸会社による交渉を認めず、国や自治体が分配量を決めて医療機関に納入する。分配量は、国が都道府県別に、都道府県は市町村別に決定する。

日刊工業新聞2020年1月22日

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