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東アジア政策精通のキャンベル氏登用は大きい。バイデン政権に日本は安全保障で引き続き協力を訴えよ

上智大学の前嶋和弘教授インタビュー
東アジア政策精通のキャンベル氏登用は大きい。バイデン政権に日本は安全保障で引き続き協力を訴えよ

バイデン次期大統領(公式ツイッターより)

米国でバイデン新政権が20日発足。民主党が大統領選に加え上下両院でも多数派を確保する“トリプルブルー”となり、まずは新型コロナウイルス対策や経済再建に注力するとみられる。ただ米国の分断は今も続き、発足時から厳しいかじ取りを求められそうだ。上智大学の前嶋和弘教授に新政権の政策や米中、日米関係の変化を聞いた。

―バイデン新政権の政策をどうみますか。

「主要政策は四つある。米国製品の購入や国内製造業の育成、再生可能エネルギー振興、コロナ対策、人権問題への対応だ。これらは全て経済政策の側面がある。例えばクリーンエネルギー産業を育成すれば雇用を創出できる。特に喫緊の課題はコロナ対策。マスク着用義務化やワクチン供給に加え、家計や中小企業を財政出動で支援する」

―足元の課題は。

「民主党左派や共和党との調整で苦労するかもしれない。共和党は増税に難色を示すだろう。支持基盤の富裕層や法人にとって都合がよくないからだ」

「上下院とも民主党が多数派を獲得したとはいえ、特に上院は議席数に差がなく民主党優位とはいえない。共和党が法案採択を妨害するフィリバスター(議事妨害)は容易に起こりうる。ただし、税制改革などの法案改正は、財政調整法を通じ(共和党の協力を得ずに)民主党単独で採決できるかもしれない」

―新政権と日本の産業界の関係は。

「クリーンエネルギーや環境ビジネスを推進する日本企業にとって、新政権の環境・エネルギー政策は追い風になる。トランプ政権は軍事費用を増やし、安全保障関係の日本企業には益する環境だった。これは民主党が軍事費抑制に動くと状況が変わりそうだ」

―米中関係は。

「農産物や非鉄金属など“ハイテク戦争”に関係ない部分でデカップリング(分離)が進み、高関税を緩める可能性がある。ただし、関税は中国に対する安全保障のグリップでもあるので断定はできない。気候変動や新疆ウイグル自治区問題では中国に厳しい態度をとるだろう」

―トランプ大統領の支持者はいまだ多い。バイデン政権は米国をまとめられますか。

「6日の連邦議会議事堂乱入事件に象徴されるように、トランプ氏の影響力は今も大きい。共和党やトランプ支持者との対話、調整は必須。内憂外患が続く。“トリプルブルー”と報じられるが、決して民主党一強ではないことに留意したい」

―日本政府は今後、米国とどのような関係を築くべきでしょう。

「東アジア問題に対してそこまで強い関心を示していないバイデン氏に対し、安全保障面での協力を積極的に訴えていく必要がある。『自由で開かれたインド太平洋』構想への理解促進や、トランプ政権時に盛り上がった日米豪印戦略対話、通称クアッドの関係継続などが求められる」

「バイデン氏自身は選挙戦を通じて東アジア問題に対して強い関心を示しているとはいえなかったが、新設のインド太平洋調整官に東アジア政策を知り尽くしたカート・キャンベル氏を登用したことは大きい。日本としては引き続き、安全保障面での協力を積極的に訴えていく必要がある。『自由で開かれたインド太平洋』構想への理解促進や、トランプ政権時に盛り上がった日米豪印戦略対話、通称クアッドの関係継続などが求められる」(森下晃行)

上智大学教授・前嶋和弘氏
日刊工業新聞2021年1月20日に加筆

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