世界的なパワー半導体の需給逼迫、東芝や富士電機に商機
最近の世界的な自動車減産の一因とされる電力制御用パワー半導体の需給が逼迫している。コロナ禍で落ち込んだ車生産の急回復を受けた欧州大手の供給不足に加えて、主要国での再生可能エネルギー投資拡大も需要を押し上げる。東芝や富士電機などは車電動化と脱炭素化で新たな商機も巡ってきそうだ。
パワー半導体は自動車や白物家電、ロボット、鉄道などの電力制御から、太陽光や風力発電の直流・交流変換まで幅広く使われる。東芝は2020年度下期において車載用パワー半導体の受注量が同上期比で約4割増える見通しだ。「国内外でパワー半導体の需要が増加しており、足元の需給はタイトな状況だ。主力拠点の加賀東芝エレクトロニクス(石川県能美市)では20年10月からフル稼働が続いている」(東芝デバイス&ストレージ)と追い風が吹く。
国内の同業も「車載向けのパワー半導体の需要は依然として強い」(富士電機)、「今後の需要動向について注視している」(三菱電機)と期待を寄せる。「車載用だとすぐに半導体メーカーを変更するのは難しいから短期的な好影響は少ないが、長期的には『やはり日系メーカーへ変える方が良い』となるかもしれない」(英調査会社オムディア・杉山和弘コンサルティングディレクター)と長期戦で商機を見いだせそうだ。
需給逼迫の背景にはパワー半導体大手のスイスのSTマイクロエレクトロニクスや蘭NXPセミコンダクターズなどの供給不足があるとみられる。
「(コロナ禍で)車載用に割り振っていた能力を再生エネ市場へ付け替えた。欧州と中国は再生エネ向けのパワー半導体需要がすごく高い」(杉山コンサルティングディレクター)と脱炭素化が遠因だ。
欧州勢が供給難に陥っている車載用半導体はパワー半導体に限らず、先端半導体など多岐にわたる。それら先端半導体の生産は台湾積体電路製造(TSMC)など半導体受託製造(ファウンドリー)大手を多く活用する。
20年前半は新型コロナウイルス感染拡大により世界の新車販売が落ち込んだ。時を同じくして、コロナ禍を契機とした在宅勤務や巣ごもり需要でデータセンターやパソコン、テレビ、ゲーム機のほか、普及の本格化する第5世代通信(5G)スマートフォン向け先端半導体の発注がファウンドリーに集中。「TSMCなどの先端半導体の生産能力は車載以外で埋まっており、6カ月先でないと新規注文を受けられないと言っている。21年上期はこの状況が続きそうだ」(杉山コンサルティングディレクター)と半導体不足は長引きそうだ。
また、半導体に加えて、車載用コネクターや基板など他の電子デバイス・材料も不足感が出ているようだ。電動化に向けて自動車産業は新たな試練を迎える。(編集委員・鈴木岳志)
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