先端半導体製造の頂点、台湾・TSMCと韓国・サムスン。国家がメーカーを取り合う時代の日本の戦略は?

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台湾のTSMC本社工場

米中貿易摩擦に代表される分断の時代は産業界を股裂き状態にして苦しめる。第5世代通信(5G)や人工知能(AI)などに使う先端半導体はその象徴だ。従来の半導体は“産業のコメ”と呼ばれてきたが、今や軍事を含む国家の競争力を左右する“国家のコメ”にまで重要性は増す。

米中では2018年以降、制裁関税や輸出規制などで対立を深めてきたが、特に半導体をめぐっては激しく火花を散らせる。ただ、両国ともに自国内で先端半導体を生産していないという、サプライチェーン(供給網)上の弱みを抱える。

「世界中で先端半導体を製造できるのは現状、TSMC(台湾積体電路製造)と韓国・サムスン電子だけだ」(業界筋)と国家がメーカーを取り合う構図となっている。中国と近い韓国政府と距離のある米国が頼るのも、半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手のTSMCだ。トランプ米政権の強い要請を受けて、TSMCは20年に米国アリゾナ州での先端半導体工場計画を発表した。

同盟国の日本も先端半導体の国産化を目指し、政府が誘致活動を展開中だ。5日に流れた台湾の現地報道によると、TSMCは日本に半導体製造の後工程工場建設を検討しているという。巨額投資の必要な前工程は米国にして、日本の方は後工程工場でお茶を濁す台湾のしたたかな戦略が見え隠れする。

ただ、日本にも一発逆転の機会はありそう。カギは20日に就任するバイデン米次期大統領だ。トランプ政権の“レガシー”をどう引き継ぐかは不透明だ。「政権交代を受けて、TSMCが計画を見直す可能性はある。アリゾナの新工場はごく小規模にとどめて、日本に大規模工場をつくる代替案だってありうる」(関係者)と官民の期待はまだしぼんでいない。

半導体に限らず、経済安全保障は産業界の新たな課題となる。

「大国間の緊張関係など地政学的リスクも解消せず、我々は常にアンテナを高くしてグローバルな経営を推進する必要がある」。日立製作所の東原敏昭社長は4日の新年あいさつでそう危機感を示した。20年末にどうにか合意した英国と欧州連合(EU)の通商交渉も、双方に鉄道事業の主力工場を持つ日立を不安にさせていた。

三菱電機が20年10月に立ち上げた「経済安全保障統括室」は、国際情勢を分析して主要国の先端技術の囲い込みに備えて事業展開のリスク管理を行う新組織だ。杉山武史社長は「投資時の注意点や手続きのほか、人材採用面でも米国で中国系を採用する際の点検手順などを徹底するリスク制御の比重が今後大きくなる」と先を読む。

分断の時代をしたたかに渡っていく“処世術”が各社の成長を決定づけそうだ。

日刊工業新聞2021年1月13日

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