外部人材が経営トップになる可能性は「100%ない」。東レ社長の主張の根拠
―2021年の事業環境をどう見ますか。
「経済活動と新型コロナウイルス感染症の押さえ込みの闘いが続くのではないか。ロックダウン(都市封鎖)で産業を完全に止める必要はない。検査を徹底的にすることで、新型コロナの押さえ込みは可能だ」
―22年度までの中期経営計画を見直す考えはありますか。
「特にない。我々は10年先を見た長期経営ビジョン、30、50年に向けたサステナビリティ・ビジョンを作った上で、課題を明確にした3年間の計画を定めているので、変わりようがない。中計で掲げた数字(の達成)は堅い。新型コロナで工事の遅れはあるが、設備投資も実施している。マスクやエアバッグ(の生地)、ABS樹脂は需要が伸びている。逆浸透膜(RO)も足りない状況だ」
「炭素繊維複合材料事業は新型コロナで人の移動が減り航空機用途は22年までは苦しいだろうが、新型コロナが収束すれば爆発的に伸びるのではないか。風力発電や燃料電池に用いるカーボンペーパーやガス拡散層向けは増産している。ゴルフや自転車などのスポーツ用途も回復傾向だ」
―ユニクロとの協業では、リサイクル繊維の活用などに取り組んでいます。繊維事業の展望は。
「欧州はリサイクルが盛んだ。米国も新大統領就任で、環境対応が進むだろう。スーツなど(の用途)は在宅勤務の増加で回復しない可能性があるが、ストレッチ性など機能性のある製品は伸びる」
―将来に向けた研究・技術開発や投資を進めています。
「がん治療薬は20年代半ばに事業化すれば、大きな利益を見込める。(心房細動治療に用いる医療機器の)サタケ・ホットバルーンは使いこなすのが難しかった点を改良した。世界で約3000億円の市場がある。東レの製品で、がんや心房細動を撲滅する」
―外部人材が経営トップに就任する動きが見られます。東レでも可能性はありますか。
「100%ない。海外子会社でも、トップは長く働いた人が就いている。彼らも『他社から来た人には務まらない。我々は東レ流の経営を理解してずっとやってきた』と言っていた。技術の蓄積や人を大事にして長期的視点の経営をするのが我々、素材産業だ」
記者の目/「地球環境」「健康」拡大
中計では「地球環境問題解決」「健康」に寄与する製品群の拡大を掲げている。炭素繊維やバッテリーセパレータフィルム、水処理膜など成長分野の投資を推し進める方針だ。外部環境の見通しが不透明な中、就任11年目となる日覚昭広社長は「アフターコロナ」を見据え、ぶれない姿勢を示す。(江上佑美子)