経産省と東証が選ぶ優れたDX企業たち。素材業界の現在地とこれから

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優れたデジタル変革(DX)を展開する企業を「DX銘柄」に選定する取り組みがスタートした。この銘柄の選定などを通じ、素材業界によるDXの進展はどう評価されたのか。同選定や別途実施された「DX推進指標」の調査内容から現在地と進むべき方向を探る。(梶原洵子)

経済産業省と東京証券取引所が2020年度から始めた「DX銘柄2020」に、素材業界からは東レと富士フイルムホールディングス(HD)、ユニ・チャーム、AGC、JFEHDが選ばれた。担当する経産省商務情報政策局情報技術利用促進課によると、銘柄企業が幅広くなるよう、各業種から1―2社の選定となっている。

選定プロセスは、まず上場企業を対象にアンケートを実施し、535社が回答した。1次評価で、アンケートの選択回答と3年平均の株主資本利益率(ROE)に基づきスコアを出した。2次評価は、1次評価スコアで選んだ

企業について、一橋大学の伊藤邦雄名誉教授らDX銘柄評価委員がアンケートの記述回答などを評価した。

この結果、DX銘柄と、特徴的な取り組みを行う「DX注目企業」を選定した。

選定のポイントについて、情報技術利用促進課の田辺雄史課長は「ITシステムを導入しただけでは、DXとしては足りない」と指摘する。DXに向けた組織・体制ができているか、経営者が変わろうとしているか、DXでビジネス変革に切り込んでいるか、といった点に着目した。

DXにはビジネスモデルに踏み込んだ取り組みが求められる(三菱ケミカルの茨城事業所)

「それぞれの業界に共通して進んでいるDXの内容を押さえ、その中でどこまでやっているか。またビジネスモデルや課題解決のところまで踏み込んでいると、加点になる」(田辺課長)という。

例えば、化学や繊維業界では、データと人工知能(AI)を使って新素材開発を効率化する手法「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」や、IoT(モノのインターネット)を駆使したプラントの安全・安定運転が共通課題だ。

ただ、各社に共通の課題は、まだ成果の少ない段階で優劣をつけることは簡単ではないだろう。高分子材料のMIもしかりだ。銘柄企業において、どの取り組みが評価されたか公表されていないが、DX銘柄の紹介資料では、銘柄企業のビジネスモデルに踏み込んだ事例が紹介されている。

東レは、材料設計にデジタル技術を活用するだけでなく、成形加工プロセスを仮想現実(VR)でシミュレーションするバーチャル試作を活用し、顧客と開発イメージを共有する取り組みを行っている。一部プロセスではなく、目標設定から市場投入まで一貫した“デジタルものづくり”を視野に入れる。

AGCは、欧州の子会社で、デジタル技術を使って「モノ売り」から「コト売り」へのビジネスモデルの転換に挑戦している。顧客の建築デザイナーと建築用ガラスの耐熱性や色をシミュレーションする。そのデータを使い、試作品の提供を従来の日単位から時間単位に短縮できた。

また素材事業ではないが、富士フイルムHDはAI技術を活用した診断支援サービスの構築に取り組む。

鉄鋼「平均以上」化学「平均」繊維・ガラス「平均以下」

素材産業全体のDXの進捗はどうか。DX銘柄選定では、ビジョン・ビジネスモデル、戦略、組織・制度、デジタル技術、成果・成果指標、ガバナンスの6評価軸の達成状況を調査し、達成率を算出した。

DX銘柄企業の達成率は、富士フイルムHDが6評価軸全てで約90―100%となり、他社も多くの項目で80%以上となった。

DX銘柄以外の状況は、各業種と全業種平均の比較(グラフ)からわかる。化学は全業種の平均とほぼ同等。繊維製品やガラス・土石製品の平均は、いずれの評価軸も全業種の平均を下回った。

鉄鋼は6評価軸で全業種平均を上回った。経産省の田辺課長は、「鉄鋼業界はロジスティクスが重要なため、以前からデータ活用が進んでいる。繊維やガラス業界のデータ活用はこれから」とみる。

自社のDX進捗を知り、進む方向を考えるには、「19年7月に公開した『DX推進指標』を活用してほしい」と田辺課長は話す。

仕組みはこうだ。各社は同指標に基づき、(1)経営のあり方(2)ITシステム構築の二つの視点について、それぞれ定性評価と定量評価を自己診断する。各社のデータを集計・分析した結果と自己診断を比較することで、自社の現在地がわかる。また自己診断の過程で経営幹部や事業部門、DX部門、IT部門などが議論することで、認識を共有できる。

第1回調査は、19年秋から同12月に集まった中小企業を含む約300社のデータを情報処理推進機構(IPA)が分析。20年5月に「DX推進指標自己診断結果分析リポート」にまとめた。同リポートによると、0―5の6段階評価で現状の平均値は1・45。

またDX先行企業と全企業の評価の差分を抽出した結果、「古いITシステムの廃棄」や「経営の危機感」などに特徴があった。これからDXを本格化する企業には活動の参考になりそうだ。第2回調査は、20年秋に各業界団体を通じて協力企業を募って実施する。

田辺課長は「今後、DXを仕組みとして定着させてほしい。また良い意味で既存ビジネスを壊し、変革してほしい」と期待する。長年の商慣習の変革は、データ活用だけでは足りず、サプライチェーン(供給網)間の協力などの別の努力も必要となる。

ダイエット方法と同じで、“どんな会社にも効くDX”はない。事業の特徴や課題、特徴、目標を捉えて戦略を立て、検証しながら、自社の仕組みに落とし込んで進めなければならない。「『このシステムを導入すればDXを実現できる』という人がいれば、ウソをついている」と田辺課長は断言する。各社の泥臭いDXが期待される。

日刊工業新聞2020年9月22日

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