「インダストリー4・0=生産性の向上」ではない!提唱者が語る「機械と人間の調和」の重要性

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ハーレーダビッドソンの米国工場(同社のウェブサイトから)。インダストリー4.0の成功例とされる

工業のデジタル化を強力に推し進める「インダストリー4・0」の概念は2011年にドイツで提唱された。製造業におけるデジタルとアナログの融合を掲げたこの概念は瞬く間に世界に広がり、日本の産業界でも「第四次産業革命」として定着した。あれから10年。インダストリー4・0の現在地はどこにあるのか。(栗下直也)

「『インダストリー4・0』の象徴」ともいわれた工場が2020年春に閉鎖された。スポーツ用品大手のアディダスの「スピードファクトリー」だ。

最先端技術を活用したシューズの生産拠点で、16年にドイツ、17年に米国で立ち上がった。ほぼすべての製造工程にロボットなどを導入し、シューズの生産速度を飛躍的に高めた。先進国でもカスタム商品を大量生産品と同水準の価格で短期間で製造できる「未来の工場」として注目を集めていた。

アディダスがドイツ国内に新工場を建てるのは約20年ぶりだったが、壮大な実験はわずか4年で幕を閉じた。アディダスは生産ノウハウをアジアに移管、シューズは再びアジアを中心に製造されることになった。

だが、アディダスの事例だけで、インダストリー4・0が失敗に終わったと考えるのは早計かもしれない。

「(期待通り)広く普及している」。この概念の生みの親で、本田財団の今年の本田賞を受賞したヘニング・カガーマン博士(ドイツ工学アカデミー評議会議長)はこの10年での成果を強調する。

インダストリー4・0は生産工程からサプライチェーンまでをデジタル化・ネットワーク化することで、生産効率を高めるのが大きな狙いだった。そして、実際に、この10年で、あらゆる機械がインターネットに接続されることで、製造業の生産性は高まっている。

例えば、「スマート工場」という言葉を一時期、よく耳にした人は多いだろうが最近はあまり聞かない。廃れたのではなく、大企業では日常の光景になったからだ。センサーが張り巡らされ、データがやりとりされる工場に真新しさを覚える人は今はいない。

一方、「『インダストリー4・0』=工場の生産性向上」と捉えてしまうとアディダスの失敗のような事例は今後も減らないかもしれない。

カガーマン博士は「機械と人間の調和」の重要性を唱え続けている。インダストリー4・0はデジタル化、ネットワーク化を進めることで、生産性向上のみならず、新たなビジネスモデルの創出や働き方の変化も包含している。例えば、製品を売ることによって得るデータを使ったビジネスを生み出したり、作業の機械化によって、労働者がこれまでと異なる業務で新たな価値を生み出したり。こうした議論は工場の生産効率化に比べると、動きは鈍い。テクノロジーの進化にビジネスのプロセスもあわせて変えなければいけないが、追いついていない。

テクノロジーと組織の議論が抜け落ちてしまえば、それは機械が人間から仕事を奪うという19世紀の議論になってしまう。組織を新しいテクノロジーに合わせて変革できるかがインダストリー4・0の真の実現には欠かせない。

日刊工業新聞2021年1月12日

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