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「緩やかな回復」続く工作機械業界、「デジタル×提案力」でコロナ禍を乗り越える

「緩やかな回復」続く工作機械業界、「デジタル×提案力」でコロナ禍を乗り越える

中国をはじめ各地域での需要増加が期待(DMG森精機の伊賀事業所=三重県伊賀市)

受注、今年「緩やかな回復」続く

2021年の工作機械業界は、緩やかな回復傾向の継続が予想され、各社にとって営業・提案力の重要性が一層強まりそうだ。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響は、工作機械業界にも大きな逆風となった一方で、各社はデジタル対応を加速させた。21年も新型コロナへの不安が足かせとなりえる中、需要回復の波に乗る上でもデジタル技術を活用した営業戦略の巧拙が問われてくる。(編集委員・土井俊、名古屋編集委員・村国哲也)

1兆2000億円 3年ぶり増 製造業革新への寄与カギ

日本工作機械工業会(日工会)がまとめた21年の日本メーカーによる工作機械の受注見通しは、1兆2000億円。前年の受注額は1兆円を下回る水準にとどまったとみられ、その前提を踏まえると21年は3年ぶりの増加となる。会員企業からは、「妥当な数字」(牧野フライス製作所の高山幸久執行役員)などおおむね好意的に受け止める声が挙がる。

昨年来の中国向け需要の回復継続に加え、新政権による経済政策効果が期待される日本、米国をはじめ、欧州やインドでも景況が改善すると想定。主な業種では、テレワークの普及や次世代携帯端末の製造を追い風に半導体製造装置関連が高水準で推移するほか、自動車関連需要も外需を中心に回復が進むと期待する。DMG森精機の森雅彦社長は、需要拡大のドライバーとして「安定生産のための工程の自動化、複合化と、高精度な部品と制御がミックスした製造方法」を挙げる。

需要開拓のカギを握るのが、工作機械にロボットや計測機器を組み合わせたシステムをいかに提案し、製造業のイノベーションに寄与していくかだろう。日工会の飯村幸生会長(芝浦機械会長)は、工作機械業界の競争軸について「加工精度や速度、剛性などの単体の性能的品質から、工程の集約化や自動化など生産設備全体のエンジニアリング提案力に変化しつつある」と捉える。

デジタル化対応重要 遠隔「立ち会い」加速

今後もコロナ禍で、対面での提案営業が難しくなる可能性もある上、「機械の購入前にインターネットで調べるなど、顧客の購買行動も変わってきている」(高山牧野フライス執行役員)ことで、デジタル対応の必要性は一層増してくるはずだ。

主要メーカーでは、デジタル化の取り組みが広がっており、新型コロナの対処法にも一定の自信をつけている。出荷前に製品の仕上がりや加工性能をユーザーがメーカーの工場に出向いて確認する「立ち会い」は、遠隔(リモート)での実施が当たり前になった。メーカーはウェブ展示会や、ウェブ会議ソフトウエアを活用した個別営業でも一定の成果を上げている。

工作機械業界では従来、特定の量産モデル以外では、リアルの立ち会いが常識だった。前回の緊急事態宣言が発出された20年4、5月ころから、メーカー各社は、やむなくリモートでの立ち会いの本格活用に動き始めた。当初は「(さまざまな質問に回答できるよう)どこまで準備してよいかわからず大変」(メーカー担当者)と対応に苦慮した。

ジェイテクトはリモート立ち会い用アプリを自社開発

しかし回数を重ねるごとにノウハウを蓄積し、マニュアル化も進んだ。「確認すべき点がより明確になった。加工テストも事前に実施して諸データを提供することで顧客満足度が高まった」(家城淳オークマ社長)との意見もある。

DMG森精機の森社長は「顧客もデジタル立ち会いに慣れ、今後も(活用が)増えていく」と話す。

コミュニケーションツールの進歩も大きい。今ではスマートフォンで通話しつつ工作機械の映像をリアルタイムで共有し、細部を遠隔から点検できる。リモート立ち会い専用アプリケーションを自社開発したジェイテクトのようなメーカーもある。「海外含め複数拠点からより多くの人が立ち会いに参加でき、リアル以上に好評」とジェイテクトの担当者は話す。

リモート営業やウェブ展示会に各社は手応えを感じている。「商談のリモート化は当たり前になった」とジェイテクトの加藤伸仁取締役経営役員は話す。ウェブ展示会についても「しっかり勧誘をすれば1社当たりの来場者は増える。商談につながっている」(家城オークマ社長)と力説する。

オークマは映像配信で新技術をアピール(ウェブオークママシンフェアにて)

リアル販売網の底上げ 展示施設を拡充

コロナ禍にもかかわらずリアルの販売網強化の手も緩めない。オークマは欧州子会社を通じてオランダ、ベルギー、ルクセンブルクの販売代理店の持ち株会社を20年5月に買収した。欧州は現地の工作機械メーカーが力を持ち、同社が攻めあぐねてきた市場だ。19年9月のドイツに続き、現地企業の買収で同市場を深掘りする。

ブラザー工業は20年10月に刈谷工場(愛知県刈谷市)に新ショールームを開所。展示スペースを以前の2・4倍に広げ、同11月に常設のオンラインショールームもオープンした。さらに21年中にインド・ベンガルールの営業・保守拠点を同市内で移転し、ショールームを拡張する。中国と日本で新拠点も検討中だ。

FUJIは同社初の複合加工機を4月に発売するのに合わせ、北米で新たに6社と代理店契約を結んだ。航空機や農業機械、建設機械での需要を開拓する。

顧客にとって工作機械は高額な設備投資となる。シチズンマシナリー(長野県御代田町)の中島圭一社長は、「最終的に機械を見て購入することは変わらないが、購入に至るまでにどういうプロセスでつなげていくかが変わってくる」と話す。デジタル化を進めつつ、リアルとの両輪で提案スタイルを進化させる流れが一層強まりそうだ。

ブラザー工業は新ショールームで全機種をアピール

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日刊工業新聞2021年1月12日

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