緊急事態宣言で緊迫する首都圏。小売り、外食、公共交通、エンタメ業界の厳しい声
首都圏の1都3県を対象にした緊急事態宣言の発出で、産業界は早急な対応に迫られている。新型コロナウイルス感染症の一層の対策に加え、小売り・外食業界では営業時間短縮などの検討を進める。一方で、前回の宣言下で品薄になった食品業界、トイレットロールを扱う製紙業界では商品の安定供給に万全を期している。
百貨店 首都圏店舗、時短営業
宣言の再発出により、百貨店各社は首都圏にある店舗の閉店時刻を軒並み繰り上げる。三越伊勢丹ホールディングス(HD)は8日から当面の間、一律19時閉店とする。J・フロントリテイリングは傘下の大丸松坂屋百貨店を20時に閉店。高島屋はテナントを含め、19―20時に閉店する。そごう・西武も19時半に閉店する。松屋は銀座店(東京都中央区)で12日から開店時刻を1時間遅い11時にし、2階以上のフロアは閉店時間を19時にする。
ドラッグストアのトモズ(東京都文京区)は3密対策として一部店舗で営業開始時間を30―60分ほど前倒ししており、今後対象店舗の追加を検討する。
外食 居酒屋は実質休業に
外食チェーン大手では、ワタミが首都圏の「和民」や「鳥メロ」など居酒屋業態で営業時間を20時に短縮する。くら寿司は首都圏の店舗営業時間について「基本的には各自治体の要請に従う方針」とする。
ある大手外食チェーン幹部は「20時閉店ということは、居酒屋業態は実質休業になる。協力金には期待している」と説明。ファストフードを展開する企業からは「1都3県の家賃は高い。協力金がそれに見合う額かどうかが気がかりだ」と危惧する。別の大手ファミリーレストランチェーン担当者は「協力金が出れば少しは救われるが、新型コロナ収束後も安心して働けるような方針を含めて出してほしい。でなければ従業員は精神的にも厳しい」と訴える。
公共交通 鉄道、安全対策に尽力
テレワーク推奨や外出自粛要請に伴い、首都圏の公共交通機関では移動需要の減少が想定される。各鉄道事業者は生活や経済活動を支えるインフラとして、また混雑の発生を回避するため、通常の運行を維持しつつ、自治体の要請にも応じていく。
首都圏における鉄道利用は、前回の宣言時に前年比5―6割減と落ち込んだが、足元は波があるものの同3割減程度まで戻った。依然、郊外よりも都心の落ち込みが大きい傾向は変わらない。
再度の宣言が、どれほど影響を及ぼすかは予測しがたいところだ。各鉄道事業者は換気や消毒など感染拡大を防ぐ安全対策に手を尽くしており、移動時の感染リスクを最大限抑えている。
旅行 広域の移動需要激減
宣言下では人の移動を極力抑える行動が要請される。特に首都圏を発着する広域の移動需要は輸送モードを問わず、利用の激減が見込まれる。すでに年末年始には多くの人が帰省やレジャーを控えており、国内線航空便で前年比おおよそ6割減、新幹線で同7割減だった。回復しつつあったビジネス往来が自粛となれば、国内線の減便や新幹線の臨時列車運休などに動かざるを得なくなる。
官民一体型旅行需要喚起策「GoToトラベル」も当面、再開が見込めない。もともと1、2月は旅行需要が低調な閑散期だが、近年は中国の旧正月・春節に伴う大型連休で訪日客が多く、かき入れ時となっていた。全国の観光地は日本人客も望めず厳しい状況だ。
【エンタメ業界は…】
東京ディズニーリゾート(TDR)を運営するオリエンタルランド(OLC)は、8日から31日まで、パークの閉園時間を20時に1時間前倒しする。早川清敬執行役員は、「ゲストやキャストの健康と安全の確保を最優先に実施していく」と強調する。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を運営するユー・エス・ジェイ(大阪市此花区)は「関西自治体の動きを見定めた上で対応を検討する」方針だ。2月4日開業予定の新エリア「スーパー・ニンテンドー・ワールド」については「今のところ変更はない」ものの、大阪府も京阪神地域で宣言の対象地域となるよう政府に要請する方針。開業にも影響する可能性がある。
映画館を運営するイオンエンターテイメント(東京都港区)は8日以降の前売り券の販売中止を検討していたが、通常通り2日前から前売り券を購入できる体制を継続する。「防疫対策も徹底していることから、通常通りとした」という。
小売り・食品 通常営業/需要予測体制構築
社会生活を支えるスーパーマーケット各社やコンビニエンスストア各社は宣言下でも変更なく原則通常営業する。食品メーカー各社も商品の安定供給に努める。
日清食品HDは前回の宣言を踏まえ需要予測ができる体制を整えた。カップめん「どん兵衛」などは12月が需要期となるため直近で増産体制を整えており足元の在庫には余裕があるという。状況に応じて迅速に生産体制を切り替える方針だ。
キユーピーは在庫調整などの対策を講じてきたことから、現状は十分な在庫があるとしている。前回は学校が休校で、子どもの昼食を家庭で調理する必要に迫られ、パスタソースなどが品薄となった。今回、大きな影響はないとみている。
前回、巣ごもり需要により家庭でのおやつ調理が増え、ホットケーキミックスなどが品薄になった。ニップンは前回を踏まえ、柔軟な対応をしたいとしている。
ある大手小売り関係者は「消費者心理をあおるつもりは全くないが在宅で巣ごもり需要がさらに拡大する。宣言の再発出が浮上した段階から、小売り各社が冷凍食品などの確保に動いている」と言い切る。大手食品卸の担当者も「前回品不足になったことを受け、食品ロスにならない程度に、日持ちする商品の在庫を増やしてきた」という。ただ今回は“2回目”ということもあり、「消費者、小売りも学習済みで買いだめによる商品不足は起こらないのでは」との見方もある。
製紙 安定供給に万全を期す
製紙業界は家庭紙の安定供給に万全を期す。現状では「在庫や増産に関して特に影響はない」(王子HD)、「在庫は適正量あり供給に問題はない」(大王製紙)という。前回の宣言前の20年2月は一時的にトイレットロールやティッシュペーパーが品薄になったが、原因は会員制交流サイト(SNS)の誤情報が発端。その後、落ち着きを取り戻した。今回の宣言を受けて、各社とも生産、出荷ともに安定供給を継続する。大王製紙は「24時間体制でフル生産を継続している」、王子HDは「新たな生産拠点を増やし、さらに安定供給を図っている」とする。
IT テレワークさらに拡大
再宣言で在宅でのテレワークが一層広がりそうだ。NTTデータでは前回の宣言発出後から10月頃まで仮想デスクトップサービスなどを提供するクラウドサービス「ビズエクサースオフィス(BXO)」の引き合いが前年同期比5割増となり、20年度は現在までで累計200件の引き合いがあった。テレワーク関連サービスの営業体制の強化などについては、今後の様子を見ながら検討する方針だ。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)もテレワーク需要が継続するとみており、ソリューションの提案をしていく。
大学入試 予定通り
宣言下で、大学入試改革の第一歩となる取り組みが始まる。2021年度の大学入試選抜から共通入学試験である従来の大学入試センター試験に代わり、新しく「大学入学共通テスト」が導入される。同テストは国公立大学だけでなく多くの私立大学でも利用され、初年度となる同テストに約53万5000人の受験生が志願した。
萩生田光一文部科学相は5日の会見で「感染防止対策を行った上で、大学入学共通テストを予定通り実施する」と発表。受験生へのマスク着用の義務化や新型コロナ感染者と濃厚接触した無症状の受験生に別室で試験を受けさせるなどの感染防止策を講じる。
今回は新型コロナ感染症対策の特例として、16―17日を第1日程、30―31日を第2日程とし、受験生が日程を選択できる仕組みを導入した。