「糖質ゼロ系」コロナ禍で大躍進、家飲み増えたけど罪悪感を感じたくない消費者心理

“おいしい”は罪ですか? #2 機能性ビール類

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コロナ禍により外での飲み会の回数が大きく減り、「家飲み」の機会が増加した。その中で好調だったのが、「糖質・糖類オフ・ゼロ」などの機能性ビール類だ。家での酒量増加を気にして健康のために取り入れたり、外出自粛による「コロナ太り」を気にしたりする声もある。「健康に配慮しつつも、我慢は感じたくない」という消費者の心理をうまくキャッチするメーカーの動きを探った。(昆梓紗)

糖質ゼロが躍進

「コロナ禍は発売以来の大きなインパクト」―。アサヒビールで機能性ビール類のブランド戦略を担当するマーケティング本部ビールマーケティング部の山本明太郎ブランドマネージャーは明かす。2007年に業界に先駆けて糖質ゼロの発泡酒「アサヒスタイルフリー<生>」を発売。ここ数年は前年比100%割れが続くなど、微減だった。しかしコロナ禍の3月以降は前年比100%以上の伸びが続き、1-11月平均で104%となった。

アサヒビールの主な糖質ゼロ系ビール類

キリンビールが10月に発売した「キリン一番搾り 糖質ゼロ」も好調な滑り出しを見せている。発売から1カ月で年間計画目標の8割の販売数量を達成、その後上方修正した計画も1カ月で達成した。
 「当社の調査では、今までビール類購入者のうち、糖質ゼロ系を選ぶ人は40%程度にとどまっていました。しかしビールを選ぶ人の中でも『健康に配慮したい』という人は80%もいます。糖質ゼロのビールに対する潜在ニーズは多いと踏んで、5年かけて開発しました」(マーケティング部ビール類カテゴリー戦略担当の北島苑氏)。ビール類で国内初の糖質ゼロを実現した同商品は、コロナ禍によりさらに高まった健康意識とも呼応し、発売後すぐに伸びを見せた。発泡酒、新ジャンルなど、他の機能性ビール類も好調で、1~11月は前年比109%と成長を見せている。

年齢層が拡大

太りそう、プリン体が多い、カロリーや糖質が高い―。キリンビールが調査した、ビール離れの理由では、多くが健康への不安だった。1位は価格の高さだが、加速する健康志向が拍車をかけている。2019年上半期のビール市場全体での販売数量は2010年比13%減の落ち込みだ。
 一方で、糖質オフ・ゼロ系市場は躍進。富士経済によると、糖質オフ・ゼロ市場は2019年には前年比102.8%の3612億円まで伸長するとしている。一方、「カロリーオフ・ゼロ市場」は鈍化。消費者の意識が「糖質」に向いていることがわかる(※)。

ウエルネス食品の国内市場
 ビール類全体に対する機能性ビール類の割合はここ10年で徐々に上昇傾向にあり、今年は20%弱になると予想される。アサヒビール、キリンビールともに社内でのビール類中の機能性ビール類の構成比は同様の20%前後。ただしキリンビールでは、2020年は前年に比べると割合がやや高まっているという。 これらの流れにコロナ禍がより拍車をかけ、機能性ビール類が売上を伸ばした。

この伸びの背景には「間口と奥行きの広がり」があるとアサヒビールの山本氏は分析する。
 「間口」は、飲み始める人(エントリー)の幅が広がったこと。従来は「健康診断で数値が悪かった」「体型が気になり始めた」という理由で機能性ビール類を購入する人が多く、ボリュームゾーンは40~50代だった。しかしコロナ禍では予防的な側面から購入する人が増え、30代後半~40代がエントリーする動きが多くみられた。また糖質70%オフなど緩めのオフ系商品から、より効果の高い糖質ゼロ商品に移行する傾向もあった。
 一番搾り糖質ゼロでも、これまでの糖質オフ・ゼロ系ビール類とは違う動きが見られたのがエントリー年齢。従来は40代が多かったが、これに関しては、20~30代でもトライアルがあった。糖質制限などが若年層でも馴染み深いものになっていることや、コロナ禍で健康への予防意識が高まっていることなどが背景にある。「1年に1回以上機能性ビール類を飲む人の割合が、コロナ前は40%弱だったものの、コロナ後は50%に増えています。コロナ禍の環境変化を機にエントリーする人が増加した印象があります」(北島氏)。
 「奥行き」に関しては、家飲みの機会が増加したことにより、既存顧客による購入量が増加したことが挙げられる。例えばスタイルフリーは、飲んでいるビール類のうちの50%以上がスタイルフリーという「ロイヤルユーザー」が出荷数のうちの80%を占める。「機能性ビール類は習慣化するユーザーが多いことが強み」(山本氏)。

我慢はしたくない

コロナ禍で増した健康志向を追い風にして伸長する機能性ビール類。現実に健康に不安を抱えている人だけでなく、「これからの健康」に配慮した予防意識によって購入層を拡大している。特に、近年注目を集める「糖質」をわかりやすく表記している「糖質オフ・ゼロ系」が選ばれる傾向にある。 また、「糖質ゼロ系は家族に対して、健康に配慮しているという免罪符的な役割も果たしているという声があった」(山本氏)、「罪悪感を解消し気兼ねなくビールを飲めるという声も多い」(北島氏)というように、ビール類を飲むことで生じる「健康を脅かしている罪悪感」を軽くする効果も、機能性ビール類には期待されている。アサヒビールではコピー調査に「スタイルフリーなら罪悪感ゼロ」といった文言を取り入れたこともあるという。

ただし、機能性ビール類を飲むことで健康に配慮し罪悪感が軽くなっているとはいえ、「我慢しているとは感じたくない、思わされたくない」というのが購入者の赤裸々な心理のようだ。
 「例えば、コマーシャル映像の検討時、運動や健康的な生活をしている最後にスタイルフリーを飲む、という映像を使ったものでは、評価をすごく低くする人が出てきました。ストイックさに対する抑圧を感じる人がいるようです」(山本氏)。キャッチコピーでも、体型を気にするようなものは取り入れないようにしている。

かわりに訴求しているのが「楽しさ」。スタイルフリーは2019年から、それまでの「飲みごたえ」を前面に出すPR戦略から、「食事を思いっきり楽しめる」というストーリー性に転換し、成果が出た。ビールよりも薄い、というマイナスイメージを打ち消すための「飲みごたえ」訴求だったが、よりポジティブで「我慢しなくてよい」というメッセージが消費者に響き、購入に繋がった。
 キリンビールでも一番搾り糖質ゼロの魅力は、「おいしいビールを気兼ねなく飲める」点だとしている。ウィズコロナで飲みたいお酒についてアンケートを取ったところ、最も多い51%がビールと回答。コロナ禍で健康意識が高まっているとはいえ、本音ではビールを飲みたい人が多い。そこに対し、我慢せずビールが飲めるというポジティブな面を訴求していきたい考えだ。

「おいしいビールで糖質ゼロ」をPR

アルコールは嗜好性の強い商品であり、健康とは相反するイメージも強い。しかし、罪悪感を軽くするような「糖質ゼロ」などの機能や、「気兼ねなく飲める」「食事を楽しく」といったポジティブなメッセージを訴求することで売上を伸ばした。
 コロナ禍以降も、健康志向や価値観はしばらく続くとみられるが、一方で食を楽しみたいというニーズは根強い。機能性ビール類の成功は他ジャンルの飲食品やメーカーの参考になりそうだ。

(※)富士経済 ウエルネス食品の国内市場調査

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COMMENT

昆梓紗
デジタルメディア局DX編集部
記者

今後、2023年、2026年と税制の改定が待ち受けるビール類。もちろんそれ自体の値段の差はありますが、ビール類を選ぶ際の判断軸が変化する1つの契機となりそうです。

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