車いすで洗髪や歯科診療ができる?元理美容師の社長が考案した思いやり

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多機能車いすを使った歯科診療(ビューティフルライフ提供)

介護・理美容で需要高まる

ビューティフルライフ(大分市、田中晃一社長)の多機能車いすが用途を広げている。新型コロナウイルス感染予防のため、密を避けた個室での介護・福祉や理美容のニーズが高まったためだ。発売から8年間の累計販売台数は約350台だが、コロナ禍を受けて5月以降だけでも20台を販売した。

【必要性感じる】

理美容師として長年活躍してきた田中社長は、県内の事業者に先駆けて、老人ホームや福祉施設での訪問理美容を手がけていた。福祉施設は作業スペースが限られていることも多く、足の不自由な高齢者らを乗せた一般的な車いすは小回りがきかず、不安定で安全面に問題があった。また、理美容師も腰をかがめた無理な姿勢で施術せざるを得なかった。

訪問理美容専用の車いすの必要性を感じ、2000年ごろから多機能車いすの開発に取り組んだ。モノづくりは専門外だった田中社長は、専門家の知恵を借りようと大学の研究者らと連絡を取ろうとした。だが、理美容師であることを理由に断られることもあったと振り返る。

そうした中、当時佐賀大学医学部の准教授で、自らも車いすを利用するKT福祉環境研究所(佐賀市)の松尾清美代表と出会った。松尾代表のアドバイスをきっかけに、製品化へ大きく動きだした。

理容室での洗髪や歯医者で診療を受ける場合、いすを斜めに倒す必要がある。製品化に向けた課題の一つが、このリクライニングした際に利用者の姿勢を維持する方法だった。

健康な人は体が下にずれても自分で動いて適切な位置に戻れるが、高齢者らはふんばりがきかず、ずり下がったままになる。元の位置に戻るには、介助者らの手を借りなければならない。

【操作性にも配慮】

多機能車いすを使った歯科診療(ビューティフルライフ提供)

そこで体圧を分散し、体がずれにくくなる特殊なクッションを開発。いすの背面とお尻の部分に取り付けた。「治療や施術を受ける時間、快適に座ってほしい」(田中社長)との思いが込められたいすは、座り心地も良い。機械に詳しくない人でも操作できるよう操作性にも配慮した。

発売を開始したのは12年。国内外で特許を取得し、13年には「ものづくり日本大賞」の内閣総理大臣表彰(優秀賞)を受賞した。

その後、同社は快適に髪や足を洗いたいという介護・福祉現場のニーズに応えるため、車いすに続いて移動式のシャンプー台や、足などを洗う洗浄器を製品化した。

同製品は目的に応じて上下に昇降する機能があり、利用者も介助者も無理な姿勢を取らずに施術できるのが特徴だ。

田中社長は自社の製品群について「理美容業界での認知度は高まってきた。今後は医療分野でも活用してもらえるようになりたい」と意欲を見せる。

ウィズコロナ時代を見据え、移動式個室を販売する企業と連携する計画もある。常に現場の意見を取り入れてきた同社のモノづくりは、これからも進化を続ける。

日刊工業新聞2020年12月21日

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