手袋には心肺蘇生の手順が書いてある!青森の広告デザイナーが考案
手袋に心肺蘇生手順を印刷 不慣れな人でも救命処置
1人でも多くの命を救ってほしい―。青森県在住の広告デザイナーである目代靖子氏は心肺蘇生の手順が印刷された手袋「QQ(キューキュー)グラブ」を開発した。医療業界や製造業には詳しくなかったが、ウェブ会議でメーカーや専門家の支援を受けて製品化に至った。本格的に製造販売するため、2020年2月に会社を設立した。命を救いたい思いから事業を続ける。
【思いつきから】
「最初は起業なんて考えていなかった。ちょっとした思いつきという感覚だった」とQQGLOVE(青森県八戸市)創業者の1人である目代氏は語る。心肺蘇生法を記した不織布製手袋のQQグラブを考案した。
総務省によれば、一般市民が心肺停止を目撃した事例は18年時点で約2万5000人。心肺蘇生措置を受けたのは、うち約1万5000人。半数は超えているが、十分とは言いがたい。
目の前で人が倒れたとき、不慣れな人間がとっさに手当てするのは難しい。そこで目代氏は17年に誰でも心臓マッサージができる手袋というアイデアを思いついた。
「ゴム手袋や軍手など、さまざまな素材を買って試作した」と振り返る。発明好きの父の影響もあり、手を動かすことは昔から苦にならなかったという。弁理士を通じて特許を取得したことが、「(起業への)大きな分かれ道だったのかもしれない」(目代氏)。
地元の産業支援機関である八戸インテリジェントプラザ(八戸市)に助言を受けつつ生産を始めた。製造業の知識はなかった。ニーズに対応した印刷所が見つからず、印刷コストが高すぎて断念しかけたこともあった。
【試行錯誤重ねる】
製造販売に成功したのは、メーカーや専門家の手助けが大きい。ウェブ会議システムで医療機器メーカーのフジタ医科器械(東京都文京区)や医工連携の支援団体と会議しつつ試行錯誤を重ねた。
QQGLOVEの社長にはフジタ医科器械の前多宏信社長が就任し、目代氏も本業の傍ら次の製品に向けてアイデアを練る。「デザイナーが本業でQQGLOVEは副業という感覚はある」(目代氏)と胸の内を明かす。ただし「お金を出して買ってくれる人がいると分かった以上、真剣に向き合っている。趣味とは違う」(同)と強調する。
同社設立後も投資は受けていない。収益を得るより社会貢献が目的のため、ステークホルダーを意識したくないという。「ある意味、大きな夢の続きのような事業。いろんな人の助けを得てここまでやってこれた」(同)と感謝する。
目代氏を支援した医工連携の支援団体、日本医工ものづくりコモンズ(東京都中央区)の柏野聡彦副理事長は「医療の知識がなくとも医工連携できることを示したモデルケース」と評する。ウェブ会議やクラウドファンディングなどを駆使し、知識や経験を補いながら医療業界に飛び込む人が増えると期待を寄せる。個人の取り組みが多くの人を動かした好例と言えそうだ。