課題は「HV頼り」からの脱却、電動車普及への道筋

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ハイブリッド専用車にした日産の新型「ノート」(アシュワニ グプタCOO)

政府が電動車普及への議論を加速している。菅義偉首相が2050年に温室効果ガス排出量の実質ゼロを掲げる中、産業の裾野が広い自動車産業の動きは国民生活とも密接に関わる。脱炭素化への機運の高まりを受け世界的な普及や開発をめぐる競争は熾烈(しれつ)さを増す。政府の音頭に対し民間を巻き込んで足並みをそろえた道筋を描くには険しいハードルが待ち構える。

経産省、旗振り役 電動車普及へ議論加速

10日に自動車業界関係者らを集めた経済産業省の会議。焦点に挙がった「30年代半ばにガソリン車の新車販売を禁じる」とする目標の表明は控えたが、議論は市場創出や電源・燃料の脱炭素化、技術的課題解消や産業競争力強化など幅広い分野に及んだ。有識者の意見を基に年内にまとめるグリーン成長戦略実行計画への数値目標の反映も視野に入れる。

国内における二酸化炭素(CO2)排出量全体のうち運輸部門は約20%に及ぶ。産業部門での排出を含め、基幹産業である自動車分野での議論加速はエネルギー政策全体を踏まえた脱炭素化への機運醸成の狙いもみえる。

政府は従来、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)を次世代自動車に定め、30年に新車販売全体の50―70%に引き上げる目標を示してきた。19年にHVは全体の約34%に及ぶが、その他は1%に満たない。販売面は依然としてガソリン車が主体を占める。

「HV頼り」脱却カギ

“HV頼り”の背景には研究開発、調達、生産、利活用など多分野で課題が存在する。経産省は19年に策定した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」で25年にFCVとHVの価格差を70万円程に縮める方針を示したが、達成への動きは鈍い。車体価格を引き下げるためカギを握る車載電池は製造コストの約3割を占め、性能にも直結する。市場規模拡大の一方、競争激化で日本のシェア低下も続く。

消費者が電動車を求める際の明確なメリット提示や段階を踏んだ需要喚起策も今後を左右する。10日公表の与党税制改正大綱では自動車の税率区分を現行の燃費基準より厳しい30年度基準に改めた。EVやPHV、FCVなどは購入時や2回目までの車検時にかかる税金を免除する一方、環境性能で劣るクリーンディーゼル車は2年間の経過措置を経て、ガソリン車と同様に燃費基準の達成度に応じた税率に見直す。

サプライヤーを巻き込んだ産業構造の転換も問われる。政府は車載電池について国内での製造・開発拠点の立地推進や、次世代電池・革新材料の開発などの支援を急ぐ方針だ。製造に必要な鉱物資源の安定調達や標準化に向けた国際連携も含め、日本の戦略産業としてサプライチェーン(供給網)構築を描く。

FCVに不可欠な水素ステーションは10月現在、全国で135カ所にとどまる。水素の製造コストやステーションの設置コストなど製造、輸送、供給を結ぶ流れを築くには戦略的整備や規制緩和が求められる。EV・PHV用充電設備の拡充も含め、インフラ整備は自動車業界の自助努力だけでは進まない。

世界を見渡すと各国で「脱ガソリン車」に向けた数値目標を掲げて主導権争いの様相を呈する。激しい競争を勝ち抜くには需要、供給の両輪で施策の旗振りが政府に試される。

小池都知事「エネルギー革命けん引」

東京都は都内で新車販売される乗用車を30年までに全て“非ガソリン化”する目標を打ち出した。2輪車は35年まで。小池百合子知事は「エネルギー革命が起きている中で後れを取らないために東京からメッセージを発していきたい」とした。

都の目標は国に先行するが、小池知事は都の人口と販売台数を踏まえ「東京は国の方針をけん引する役割も果たす必要がある」としている。今後、充電設備や水素充填設備の整備を加速するほか、自動車業界と緊密な意見交換を推進。規制緩和について条例改正や国に要望する。

現在のEVやFCVの購入補助金は維持する方向。「フォーミュラE」をはじめとしたEV、FCVの世界的なカーレースの都内開催を目指し、電動化の機運を醸成する。

都は従来、30年までに新車販売に占める比率をEV、PHV、FCV合計で50%としていたが、これにHVを含めて100%を目指す。現在の比率は4種類の合計で約40%。

車メーカーの動き 電動化促進、自然な流れ

政府が電動車普及の方針を鮮明にしたことを、自動車業界では脱炭素化に向けた自然な流れと受け止めている。ある自動車メーカー幹部は自社の電動化戦略に沿っているとし、「政府が方針を示すことで電動化が加速される」と歓迎する。

自動車各社も電動化への対応を加速している。トヨタは国内販売の約4割をHVやPHVなどの電動車が占める。9日に発売したFCV「MIRAI(ミライ)」では航続距離を約3割延ばして使い勝手も高めた。日産自動車は独自のハイブリッド技術「eパワー」を搭載した小型車「ノート」を23日に投入する。ガソリン車を設定しないHV専用車とした。21年には新型EV「アリア」の投入も予定する。ホンダは二つのモーターを搭載した独自のハイブリッドシステムで小型車向けも開発し、2月に初めて「フィット」に搭載して発売。10月には初の量産型EV「ホンダe」も投入した。

環境規制をめぐっては日本が30年度以降の新たな燃費基準を導入。走行時だけでなく、ガソリンや電気がつくられた工程も含めて燃費を評価する「ウェル・トゥ・ホイール(WtW)」の考えを取り入れた。欧州などでは自動車の生産から廃棄までライフサイクル全体でCO2排出量を評価する「ライフサイクルアセスメント(LCA)」での規制導入に向けた議論も進む。各社は規制に応じて競争力の高い電動車をつくり分ける技術力や、ライフサイクル全体で低炭素を実現する環境対応力も求められる。

強まる環境規制に対応するため、グループで乗り切る動きも広がる。欧州ではスズキが20年にトヨタグループからPHVを調達して自社ブランドで発売。マツダもトヨタからHVの調達を予定する。SUBARU(スバル)はトヨタとEVを共同開発する。

ホンダも米ゼネラル・モーターズ(GM)とEVを開発。GMとは北米の4輪事業でHVを含めた車台の共通化などで戦略的提携を検討する。

日産や仏ルノーと連携する三菱自動車の加藤隆雄最高経営責任者(CEO)は「アライアンス(企業連合)にはEV、PHV、HVなどの技術があり、各国の環境規制に応じてそのアセット(資産)の中から使う技術を選択すれば良い」との考えを示す。脱炭素への取り組みはそれぞれ異なるが、各社が個性を発揮するためにもグループとしての総合力をいかに高めるかも重要になりそうだ。

車載電池メーカー、供給拡大狙う

政府が脱炭素化を鮮明にしたことで、車載電池を生産するエンビジョンAESCグループ(神奈川県座間市)の松本昌一社長は「非常にポジティブに受け止めている」と話す。

電動化の動きが加速する中、「いかに成長につなげられるかがポイントだ」と指摘し、供給能力の拡大を狙う。3年内をめどに国内や欧州に新工場を設置する予定だ。

電池の開発競争も激しい。電池の軽量化やパワー密度の向上は電動車の航続距離に関わる。また、次世代の「全固体電池」の実用化も期待される。松本社長は「まずは既存のリチウムイオン電池の性能を進歩させる」とした上で、「どのタイミングで全固体電池にシフトするかが今後の検討事項になる」と話す。

日刊工業新聞2020年12月11日

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