脱炭素化やデジタル化...「賢い支出」で民需主導へ。ポスト・コロナの成長戦略
政府が8日まとめた事業規模73兆円余りの追加経済対策には、コロナ禍以前から衰弱していた日本経済の成長力を立て直すための施策が、多く盛り込まれた。雇用と事業を守るための危機対応を継続しつつ、ポスト・コロナ時代の持続的な成長を目指し、脱炭素化やデジタル化、生産性の改善に向けた民間投資を引き出す取り組みに力を入れる。コロナ禍の中で鮮明になった日本経済の構造的な課題を克服し、民需主導の自律的な成長につなげていく必要がある。
民需主導へ構造転換
追加経済対策は「ポスト・コロナに向けた経済構造転換と好循環の実現」を、感染拡大防止や国土強靱(きょうじん)化と並ぶ柱に据え、脱炭素化に貢献する革新的な技術の開発を狙った2兆円規模の基金の創設などを盛り込んだ。コロナ禍以前からの課題である日本経済の成長力低下を克服する狙いがある。
経済協力開発機構(OECD)の世界経済見通しによると、日本の実質成長率は2020年にマイナス5・3%まで落ち込んだ後、21年にはプラス2・3%、22年はプラス1・5%と持ち直すものの、世界全体や主要20カ国・地域(G20)の成長率を下回る。その理由として挙げたのは、民間投資の萎縮だ。
1990年代初頭のバブル経済崩壊以降、日本経済の低成長が続く中で多くの企業が、生産性の向上を狙った設備投資や、イノベーションの創出に向けた研究開発投資への積極性をなくし、利益の多くを内部留保としてため込んで来た実態が背景にある。
そこで新しい経済対策では、これらを攻めの投資に振り向けさせる「賢い支出」を重視した。脱炭素化やデジタル化、さらには中小企業の生産性向上に向けた投資の呼び水となる施策に力を入れ、民需主導の自律的な成長につなげる狙いだ。
この間、取り組んだ需要喚起策や雇用対策も見直す。当面は観光振興策「GoToトラベル」事業や雇用調整助成金の特例措置を続けるものの段階的に縮小し、それぞれ観光地の魅力そのものを高める施策や、成長分野への労働移動を後押しする施策に軸足を移す。
ただ、こうした取り組みが効果を発揮するまでには、一定の時間がかかる。一方で内閣府が8日発表した20年7―9月期の国内総生産(GDP)統計によれば、日本経済はいまだ年換算で30兆円規模の需要不足に陥っているとみられ、設備や雇用の過剰感がさらに強まる可能性がある。足元では新型コロナウイルスの急速な感染拡大で、景気の下振れリスクも高まっている。危機対応が長引く中で自律的、持続的な成長に向けた構造改革が遅れる懸念がある。
脱炭素化/技術開発、2兆円基金創設
50年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向け、2兆円の基金を創設する。今後10年間にわたり、水素発電や次世代蓄電池、カーボンリサイクルなど革新技術の開発を支援する。野心的なエネルギー政策を打ち出し、産業構造を大胆に転換する意向だ。
脱炭素化の目標達成には、再生可能エネルギーの主力電源化が急務だ。特に水素関連技術は日本がリードしており、この分野に投資すれば温室効果ガスの排出削減と国際競争力の強化という“一挙両得”になる。一方、次世代蓄電池は洋上風力発電の活用に加え、高性能な電動車の普及に欠かせない。開発競争を喚起し「脱ガソリン車」を主導する。
二酸化炭素(CO2)を化学品などの炭素資源として再利用するカーボンリサイクルも国家的な政策に位置付けた。CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)技術を引き上げ、日米など国際協調で推進する。
デジタル化/1兆円確保、司令塔に期待
行政や社会のデジタル化の加速では1兆円超を確保する。ただ、司令塔役として期待される「デジタル庁」の発足は21年の見通し。デジタル庁の業務の概要は11月に示されたが、政府情報システムの統合をはじめとして、一朝一夕には進まないものが多い。国の情報システムに関する予算は20年度で約8000億円に上っており、追加的な費用をどれだけ有効に使えるかも問われる。
比較的短期で効果が出る可能性がある施策は、マイナンバーカード所有者向けの消費活性化策「マイナポイント」の対象人数拡充だ。ポイントの付与期限を21年9月に改め、当初予定から半年延ばす方針。21年3月までにカードの申請をした人を付与対象とする。
政府はマイナンバーカードを「デジタル社会のパスポート」(平井卓也デジタル改革担当相)と位置付けるが、20年11月1日時点の普及率は21・8%。カードの交付を加速できるかがデジタル化への試金石となる。
中小支援策/事業再構築、資金援助
中小企業対策では、「事業再構築補助金」の創設が柱となる。業態・業種転換や新規事業への進出、事業再編などによる規模拡大に取り組む中堅・中小企業を対象に、最大1億円を補助する。設備投資などを後押しし、生産性向上や最低賃金の引き上げなどを図る。
売り上げが減少した事業者に現金を給付する持続化給付金は、事業の継続が目的で21年1月に申請期限を迎える。ウィズコロナ・アフターコロナに向け、事業再構築補助金で事業継続の先を見据えた経営を支援する。
また資金繰り支援の実質無利子・無担保融資は、民間金融機関は21年3月まで、日本政策金融公庫は同年前半まで延長する。
観光支援策/需要喚起、地域後押し
「GoToトラベル」事業は、新型コロナ対策の予備費を使い21年6月末まで延長する。旅行需要の平日への分散化を図りながら観光需要の回復につなげる。赤羽一嘉国土交通相は8日、「需要が一気に冷え込まないように段階的に割引率を引き下げる」とした。
コロナ後を見据え既存観光地の再生や高付加価値化も進める。柱は観光地単位で作成する再生計画の半額支援で、廃旅館の撤去による景観改善や異業種との連携などが対象。インバウンド(訪日外国人)の復活も意識し、十分な防疫措置をした小規模分散型パッケージツアーの受け入れや、空港機能強化などに取り組む。
一方、コロナ禍を契機に地方へ移住が進むことから「地方創生テレワーク交付金」を新設、地域金融機関による人材マッチングなど効果的な支援を行う。
日本商工会議所会頭・三村明夫氏 中小の変革支援歓迎
日本商工会議所の三村明夫会頭は8日、「切れ目のない15カ月予算編成に向け、ポストコロナの経済構造転換も見据えた経済対策が閣議決定されたことを歓迎したい」とのコメントを出した。コロナ禍で厳しい経済情勢が続く中で、「経済回復や中小企業のビジネス変革への取り組みが成果を得るまでには一定の時間を要する」とした上で、「中小企業の生産性向上に向けたデジタル実装や、新事業展開・事業再構築などの構造変革への挑戦を強力に後押ししていくことが必要だ」とした。