川重とIHIが中期経営計画を見直し、コロナで顕在化したコングロマリットのリスク
川重、ロボを軸に収益力 IHIは脱炭素・防災
川崎重工業とIHIは新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて、中長期の経営計画をそれぞれ見直した。両社とも主力の航空機分野が旅客需要の急減で悪化し、航空機に代わる分野での収益の補完を迫られている。川重の橋本康彦社長、IHIの井手博社長はともに就任1年目から試練に直面した。コロナ禍によりコングロマリット(複合企業)のビジネスモデルにほころびが生じており、構造改革の局面を迎えている。(孝志勇輔)
「航空エンジンと双璧をなす事業の柱を創出する」―。IHIの井手社長は2023年3月期までの3カ年の経営計画での方向性をこう説明した。国際線の旅客が回復するには時間がかかるとみられ、航空機部品の生産やエンジンの整備を展開する両社は苦境に立たされている。
戦略を大幅に見直さざるを得ない状況で、川重は産業用ロボットと他部門の技術を組み合わせて、新たなビジネスモデルを模索する。ロボット出身の橋本社長ならではの方針で、部門の枠を越えて収益力を取り戻そうとする動きだ。一方、IHIは航空機分野のほか、環境負荷を低減する「脱炭素化」、社会インフラの保全、防災・減災を成長事業に位置付ける。
井手社長は資源・エネルギー・環境部門の出身。両社長に共通するのは、出身部門から初めて社長に就任した点だ。出身部門を強化した手腕を買われており、リーダーシップを発揮しながら、業績をコロナ禍以前の水準に回復するのが最優先だ。川重は今後10年間での営業利益率の目標を示したが、前回の中期経営計画とほぼ同水準で「単に利益を追求するだけでなく、成長事業にしっかりと投資する」(橋本社長)方針。IHIが公表した経営目標も前中計を踏襲しており、再挑戦の意味合いが強い。
またコロナ禍で経済や産業活動が一気に落ち込んだことで、コングロマリットの経営がはらむリスクが顕在化したと言える。構造改革の必要性が高まり、川重は鉄道車両と2輪車の両事業を21年10月に分社する。IHIも今回の経営計画で、収益性の低い事業は再編する方針を示した。両社は収益のバランスを取ってきたコングロマリットのあり方を見直す必要がありそうだ。