過疎地、老人ホームで喜ばれる「移動式販売」の苦悩
“買い物弱者”増に対応
高齢化の進展や地元小売店の相次ぐ廃業を受け、食料品など必需品の購入が困難になる“買い物弱者”が増加している。この課題に対し、コンビニエンスストアやスーパーマーケットが軽トラックに荷物を積んで、家の近くや軒先で販売する「移動販売」が役立っている。新型コロナウイルスの影響で人混みを避けたい人たちにとっても利用しやすく、移動販売があらためて注目されている。ただ急拡大しない課題も抱えている。(編集委員・丸山美和)
相模原市などで6店舗のセブン―イレブンを経営する田村謙二社長は、4年前に移動販売「セブンあんしんお届け便」を始めた。専業の担当者が相模原宮之上店から週6日、午前10カ所、午後6カ所程度を回る。セブン―イレブン本部から貸与された2台の軽トラックには、パンや牛乳、冷凍食品や菓子など食品を中心に約300品目が搭載されている。
【利便性向上】
店舗から10キロ近く離れた山間部の集会所前では、70代の母親と連れだって来た小島静香さんが乳酸菌飲料や冷凍食品などを購入。「このあたりは店がなく、ちょい足し買いに良い。母も毎週楽しみにしている」(小島さん)。販売車は1カ所当たり約20分程滞在。「平均5―6人が来店し、購入金額は1人当たり2000円程度」(田村社長)という。
セブン―イレブンでは全国で103台が稼働している。
ローソンは2013年から移動販売を開始。100店舗で約120台の移動販売車両があり、店舗がない集落や高齢者福祉施設、病院、工場などを巡回している。それぞれの場所にいる人たちの利便性向上、交流機会の創出が主な目的だ。
「過疎地だけでなく、老人ホームなども買い物に困っており、移動販売車は喜ばれる。複数の施設から要望が届いている」(戸津茂人ローソン新規事業本部マネージャー)。
特に高齢者施設では、新型コロナの影響で、建物内から玄関前に販売場所を変更するなど、利用者の要望には柔軟に対応している。10月には1カ月間、新潟県と共同で高齢者が多い県営住宅で移動販売の実験を行った。
このほか、イオンリテールは19年から千葉県船橋市の北部で移動販売を開始。高齢者を中心に日々の買い物が不便と感じている人が多いエリアという。ダイエーも千葉県市川市内で21年1月から移動販売を始める。
農林水産省が公表した買い物弱者(食料品アクセス困難人口)は、15年時点で824万6000人とされている。移動販売の需要は過疎地だけにとどまってない。
【収益確保課題】
一方、需要があるものの移動販売が急拡大しない理由として、販売に関わる人手と収益確保などの問題がある。特に店舗数が多いコンビニでの展開が期待されるが、やるかどうかはオーナー自身の判断だ。「移動車を止める場所に苦労することもあり、自治体や自治会からの要請を受け、連携もできれば参入障壁は下がる」(田村社長)。常連客が多いことから、高齢者の見守り的な役割も果たしており、自治体の積極的な関わりが、移動販売拡大の近道となりそうだ。