ドコモ、破格の値段設定に踏み切るまでの葛藤と思惑

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新料金プランを発表する井伊NTTドコモ社長(3日)

“NTT主導”の携帯通信料金引き下げが幕を開けた。NTTドコモが値下げを決断した背景には、NTTのドコモ完全子会社化によってドコモの体力強化が見込まれることがある。KDDIとソフトバンクは今後、料金面で新たな対抗策を打ち出すとみられる一方、NTTの市場支配力強化が懸念されるとして総務省に公正な競争環境の整備を求めている。こうした議論がNTTグループの再編の行方に影響を及ぼすかも注目される。(斎藤弘和、苦瓜朋子)

ライバル、対抗策検討

総務省の「公正競争確保の在り方に関する検討会議」(3日)

「期間限定ではなく、ずっと、この料金でお使い頂ける」―。3日、新料金プラン「ahamo(アハモ)」の発表会に登壇したドコモの井伊基之社長は胸を張った。月間データ通信量上限20ギガバイト(ギガは10億)が月額2980円(消費税抜き)。KDDIやソフトバンクがサブブランドで提供予定の20ギガバイトのプランより安く、第5世代通信(5G)にも対応する。また、既存の料金プランも見直し、12月中に別途発表する方針だ。

ドコモが大胆な値下げに踏み切れるのは、NTTがドコモの完全子会社化を決めたことが大きい。NTTはグループ横断での意思決定の迅速化や研究開発力強化などを目的にドコモを子会社化するが、近年、国内通信市場で競合他社に押され気味のドコモをテコ入れする意味もあった。ドコモは2020年3月期連結決算が減収営業減益に終わっただけでなく、売上高・営業利益とも業界3位に甘んじている。

こうした状況下でドコモが政府の求める携帯通信料金引き下げに応じると、収益の下押し圧力が強まってしまい、一般株主の理解が得られにくい。だがNTTがドコモを完全子会社化することでこの懸念は解消し、経営体力が強化されることで値下げの余力も生まれる。完全子会社化は12月29日付の予定だ。井伊社長は「3番手ではなく、トップに返り咲いたね、と言われたい」と意気込む。

また、澤田純NTT社長は「(通信料金などの)基盤的コストを下げることが国の国際競争力(を向上させること)になる」とし、公共性の観点からも引き下げが必要だと指摘する。

政府は以前から通信市場の競争促進による値下げを追求してきたが、コロナ禍で生活に困窮する人が増えた点も踏まえ、実現を急いでいる。NTTはこうした意向に応えた格好とも言える。

「3番手」ドコモを完全子会社化で巻き返し

とはいえ、短期的にはドコモの収益は大きく落ち込みかねない。20年4―9月期連結決算では、売上高のうち通信事業の占める割合が約77%だった。金融や電子商取引(EC)といった非通信事業は拡大傾向ではあるものの、当面、ドコモの屋台骨が通信であることに変わりはない。

ドコモに限らず、今後の携帯通信会社の成長は、非通信事業がカギを握る。例えばドコモはスマートフォン決済「d払い」について、自社の通信サービスを契約していない人へも利用を促してきた。KDDIやソフトバンクも同様であり、幅広い顧客との関係構築を目指している。

井伊社長は「料金を下げれば、通信料としては減収になる。非通信サービスを含めて(減収分を)どう埋めていくかが経営者の責任だ」と気を引き締める。各社はどれだけ早く収益源の多様化を進められるかが問われる。

「公正競争」の確保議論に 各社、消耗戦加速を警戒

武田総務相は携帯各社のメーンブランドの料金引き下げを強く要望している

「多くの利用者が契約しているメーンブランドは、全くこれまで新しいプランが発表されていない。これが問題だ」―。武田良太総務相は、11月20日の会見で語気を強めた。

KDDIとソフトバンクは10月、それぞれのサブブランドで月間データ通信量上限20ギガバイトの新プランを提供すると発表。料金は海外と同等の水準にすることを意識し、月額4000円程度とした。

これを武田総務相は「魅力的な料金・サービスの選択肢が広く提供されることは良いこと」と評価していた。それだけに11月20日の発言は唐突感が否めず、総務省内からも「正直に言って、驚いた」との声が漏れた。

ドコモと競合する携帯大手の関係者は、「(ドコモ親会社の)NTTは政府と一体の会社。武田総務相はドコモから値下げをすることを報告されていて、ああいう姿勢を示したのでは」と冷ややかに語る。発言をきっかけにドコモの値下げが実現したとなれば、政府の“実績”として訴求できる、との見方だ。メーンブランドでの値下げに慎重だったKDDIやソフトバンクにクギも刺せる。

ドコモが新プランを発表した以上、KDDIとソフトバンクは追加の対抗策を打たざるを得なくなる公算が大きい。値下げ競争が加速すれば消耗戦の様相となり、相対的に体力の大きいドコモが有利になる可能性がある。

一方でKDDIやソフトバンクは、NTTによるドコモの完全子会社化が公正な競争環境の確保に影響を及ぼしかねないとして反発を強めており、ドコモが競争力を順調に高めていけるかは不透明な要素も残る。

総務省は3日、「公正競争確保の在り方に関する検討会議」を立ち上げた。今後この会議で論点になりそうなのが、ドコモ、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)、NTTコムウェア(東京都港区)の3社の関係だ。

NTTは今後、3社の連携を加速してコスト削減や法人営業強化につなげる考え。現在はNTT傘下であるNTTコムとコムウェアを、ドコモの100%子会社とする選択肢を検討している。だが3日の総務省の会議に登壇した高橋誠KDDI社長は「NTTコムなどとの結合でさらに市場支配力が増大する」と主張し、NTTの動きをけん制した。

NTTのドコモ完全子会社化自体は覆らないものの、多角的な観点で競争環境を検証していくことは必要だ。例えば大手通信会社の料金引き下げ進展に伴い、もともと割安な通信サービスを展開してきた仮想移動体通信事業者(MVNO)の顧客流出リスクが高まる可能性が考えられる。

ケーブルテレビ大手でMVNO事業も手がけるジュピターテレコム(JCOM)の石川雄三社長は、KDDIとソフトバンクの20ギガバイトの新プランが発表されていた11月時点で「率直に言って両社とも挑戦的な、お安い値段で提供している」とし、自社への影響はあるとの見解を示していた。政府には高いバランス感が求められる。

日刊工業新聞2020年12月4日

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