ファイアウオール規制見直しで揺れる金融界、独立証券会社は強い警戒感

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銀行は競争力向上や承継支援での情報連携の必要性を訴える(イメージ)

政府・与党内で、銀行規制の緩和に向けた議論が進んでいる。中でも銀行と証券会社間で顧客の非公開情報の共有を制限するファイアウオール規制の見直しが焦点。同規制をめぐっては、規制撤廃を求める銀行業界に対し、独立系証券会社は銀行の優越的地位が強まるとして警戒している。今後の議論の行方を探った。(編集委員・宮里秀司)

成長戦略に明記 国際M&A、外資に遅れ

成長戦略フォローアップで金融機関に対する規制の見直しが盛り込まれた(金融庁が入る中央合同庁舎第7号館)

政府は7月、成長戦略の具体的施策を示した「成長戦略フォローアップ」を閣議決定した。その中で銀行をはじめとする金融機関に対する規制の見直しを盛り込んだ。外国法人顧客に関する情報についてファイアウオール規制の対象から除外を検討すると記した。国内顧客についても、公正な競争環境に留意しつつ検討することとした。

「野村(証券)や大和(証券)がどうだという話ではない。世界のM&A(合併・買収)では外資にアレンジャー(主幹事)を持っていかれている。だから強い銀行(金融機関)が必要」―。11月上旬に開かれた自民党の金融関係の会合。一部議員が規制見直しの必要性についてこう訴えた。

実際、国境を越える「クロスボーダーM&A」が活発化する中、日本の企業や市場をまたぐ案件においては、情報の受け渡しに日本の規制が適用される。銀行や証券会社などが具体的な案件の提案を行うには、日本企業と海外企業双方から同意書を得る必要がある。

米国やドイツなど海外に目を向けると、銀行・証券間で顧客の非公開情報の共有について日本と同様の規制が存在していない。海外企業の同意書を取得するのに労力を要すケースも多く、海外金融機関と比べ、銀行・証券間の規制があることも、日本の金融機関にとって競争上不利との指摘もある。このため海外法人の情報を取り扱う場合、欧米の基準に合わせる方向で議論が進んでいる。

銀行、一体での情報連携を訴え/証券、独立系が警戒感

現在、金融庁の金融審議会(首相の諮問機関)は、市場制度ワーキング・グループ(WG)でファイアウオール規制の見直しについて議論を進めている。だが、議論について銀行・証券の両業界の反応は分かれている。

全国銀行協会(全銀協)は、規制により中小企業の事業承継で資産を把握するための情報が十分に得られないことを指摘。こうした点などを踏まえ、銀行・証券が一体となって情報連携できる仕組みの必要性を訴える。

一方で日本証券業協会(日証協)は、「証券業が銀行の一部門として行われるようになると、銀行の優越的立場がより広く、強くなると予想される」(独立系証券)といった声を交えて懸念を表明。どこの国にもローカルルールはあるとして、日本の事情を考慮した規制に関する議論を求めている。

導入27年―金融環境激変 顧客の意思確認が重要

ファイアウオール規制は1993年、金融制度改革法が施行され、銀行に子会社形態で証券業務への参入を認めた際に導入された。いわゆる“激変緩和措置”として講じた経緯がある。メガバンク傘下の銀行と証券会社が顧客情報を共有し、融資先企業に増資や社債発行などを自由に提案できるようになれば、銀行の優越的地位が高まる恐れがあった。2008年の金融商品取引法などの改正で、銀行に対する利益相反管理体制の整備が義務化され、優越的地位を乱用した証券取引の禁止も導入した。

野村証券が代表を務める「資本市場の健全な発展を考える会」は、金融審に提出した資料で「日本では銀行の地位が相対的に高いという特殊事情が今も残っており、顧客が声を上げにくいという構造的な問題がある」と指摘する。顧客にとっては「自分の知らないところで、情報を共有されることへの懸念もある」ため、顧客の意思確認が重要だとする。

金融審の委員からも「規制を撤廃しても、顧客の同意なしに、無制限に情報を共有することにはならない。守秘義務や個人情報保護のベストプラクティス(業務運営)が現行規制で妨げられているのかを明らかにするべきだ」との意見が出た。

もっとも現行規制上であっても、顧客から情報提供の同意を得て書面で残すなど所定の手続きを取れば、同じグループの銀行と証券会社が顧客情報を共有することは可能だ。だが、大手銀出身のあるM&Aアドバイザーは「顧客から情報提供を受ける場合に、意思確認の手続きが徹底されていない事例も一部で散見される」と明かす。規制緩和についても「現状を追認し、お墨付きを与えるだけになってはならない」と忠告し、本質的な議論を求める。

銀行業界はかねて顧客の利便性向上や日本の資本市場の競争力強化には、現行のファイアウオール規制撤廃が必要だと主張してきた。顧客に関する非公開情報の受け渡しや、利益相反が起こらないよう、業界全体として管理体制強化に取り組んできたとしている。

一方で、規制緩和で優越的地位の乱用などが起きた場合には、事後的な厳罰化が必要だという意見は根強い。

藤原弘治みずほ銀行頭取は「顧客保護、優越的地位の乱用防止、利益相反の完全排除は継続的に行っていく。そこは今後も変わらない」と力説する。その上で、規制見直しは「我々銀行が、世の中から信任を得られていることが前提」とする。

規制導入から27年がたち、金融機関を取り巻く環境は大きく変わった。少子高齢化が進み超低金利環境が続く中、経済にデジタル化の波が押し寄せている。国内資本市場の健全な発展や、企業が資金調達をしやすい環境づくりに向け、規制見直しの議論は必須と言える。信任を醸成し、議論を進めていくためにも各金融機関の良識が問われている。

日刊工業新聞2020年11月30日

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