フィンランドが欧州最速で労働者の6割を在宅勤務に移行できたワケ

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リモート円滑移行の強みに

【欧州一早く在宅勤務へ】

先日、フィンランド最大手の新聞に、日本のマスク文化を特集する記事が掲載された。フィンランドでは医療や作業現場以外でマスクをする習慣がない。春の新型コロナウイルス感染症の第1波の時もマスクの議論はあったが、推奨に至らなかった。現在、感染状況は欧州の中ではいい方だが、第2波の真っただ中。着用が求められる場所は広がり、日本に学ぼうといった記事が出るに至った。

フィンランドではマスクをはじめ、この春行われたコロナ対策の検証が行われている。試行錯誤した中でうまくいったこともあった。それが在宅勤務と遠隔授業への移行だ。元々、在宅勤務になじみがあったとはいえ、コロナの感染拡大後、欧州一の早さで労働者の6割が在宅勤務に移行した。フィンランドは中小企業が全企業の9割以上を占めるが、規模や地域に関係なく在宅が定着しつつある。

学校も対面授業をやめて2日後に遠隔授業が全国で始まった。遠隔の経験があったわけではないが、子どもの教育を受ける権利を奪ってはならないこと。ウェルビーイング(幸福・福利)のためにもできるだけ日常を保つことを目的に、見切り発車ではあったが開始となった。今は義務教育は対面に戻ったが、この経験から学んだことは多い。

在宅勤務も遠隔授業も移行がスムーズだった背景には、デジタル化が以前から進んでいたことがある。支払い処理も各種の手続きもメールやオンラインシステムがほとんどで、もはや紙の使用や郵送はほとんどない。学校と家庭の間も電子連絡帳が使われ、子どもは小学校入学と同時に自分の携帯電話を持つ。住宅の通信環境が整っていたことも移行を後押しした。

【環境や人材獲得に効果】

在宅勤務は満足度も高く、さまざまな効果を生んでいる。フィンランドの省庁では7割の職員が在宅勤務になり、病欠が5割減った。職場の感染防止策や在宅への移行のため、やむを得ない出費もあった一方で、出張が減り1億ユーロ(約124億円)コスト削減につながった。企業によってはオフィス面積を半分以下に縮小し、より環境にやさしいスタイルに変えたところもある。

地方移住やサマーコテージの購入も増加した。フィンランドには伝統的に休みを湖畔や海辺のサウナ付きコテージでのんびり過ごす文化がある。在宅であれば場所を選ばない。コテージに通信環境を整えれば仕事もできる。地方自治体には高速通信インフラを整備して過疎化を防ぎ、ワーケーションや移住者の増加を狙おうという動きもある。逆に企業には、優秀な人材を会社の所在地に捉われず、広く集めるチャンスが生まれた。

【経験・ノウハウ広く共有】

フィンランドでは年末まで在宅勤務が推奨され、コロナ収束後も在宅中心、もしくは在宅と出勤の併用型が続くと想定されている。そこで、雇用主は在宅を前提とした、より良い働き方を、社員のウェルビーイングと効率向上の観点から探っている。実態調査やストレス調査を頻繁に行い、課題の明確化、解決に向けた試行やノウハウの情報共有も盛んだ。

孤立感やメンタル問題解消のために、数人でオンラインのコーヒー休憩をとって仕事以外の雑談時間をつくる、心理士のオンラインカウンセリングを提供した、効果的な上司の声のかけ方を研究、といった話はよく聞く。肩こり・腰痛対策では、オンラインでストレッチ時間を設けたり、理学療法士の講義も開催されたりしている。友人が勤める大手企業ではウェブ会議は1回45分以内と決められた。残りの15分を休憩や次の会議への準備時間とし、開始時間に遅刻せず集中した会議ができるようにとの配慮だ。

どうしても在宅ができない職種や、合わない人がいるのも事実だが、皆が一律ではなく、一人ひとりにあった働き方が選択できるのが理想的だ。だからこそ一時しのぎのために在宅を試して終わるのではなく、きちんと向き合い、課題を整理して、広く経験やノウハウを共有していくことも必要だ。

【略歴】

ほりうち・ときこ 05年(平17)フィンランド・ユヴァスキュラ大学院コミュニケーション専攻修士修了。帰国後は都内のフィンランド系機械メーカーに勤務する一方、ライター、通訳として活動。13年から現職。長野県出身、45歳。

堀内都喜子氏

日刊工業新聞2020年11月23日

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