12月に運転再開の川内原発。「カーボンニュートラル」は原発抜きに語れない?
九電、川内1号機、運転再開
東日本大震災以降、停滞を余儀なくされてきた原子力政策がようやく前進し始めた。安全性という重い課題に取り組んできた成果が実を結びつつある。加えて2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロとする国家目標も控える。カーボンニュートラル実現への道筋は、原発の存在を抜きには語れない。原子力政策が再始動するための課題は何なのか、現状を追った。
世界一厳しい
世界でもっとも厳しいとされる新規制基準をクリアした原発が動きだす。九州電力の川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)1号機が17日に原子炉を起動、18日には臨界に到達した。そして発電を再開、12月中旬には通常運転に復帰する見通しだ。テロなどを想定した特定重大事故等対処施設(特重施設)を運用する初めての原発となる。福島第一原発の事故を教訓に、予期せぬ災害や事故で安全機能が喪失してシビアアクシデントが発生しても、その進展を食い止める対策だ。
特重施設は米同時多発テロのような航空機による建物の衝突を想定する。原子炉が冷却機能を失い炉心が損傷した場合にも放射性物質の放出を抑制するための施設だ。原子炉から100メートル以上離れた建屋に、発電機や緊急時制御室、貯水槽を設置。既存の冷却機能を失っても、原子炉などへ冷却水を注水できるよう手段が確保され、多重化されている。
原子力規制委員会の定める設置期限に間に合わず九電は3月16日から川内1号機の運転を停止し、特重施設の完成に専念してきた。川内2号機も特重施設の使用前検査の合格まで運転を停止しており、12月26日にも運転再開する。特重施設は工事計画の認可後5年以内の完成を求められ、玄海原発(佐賀県玄海町)3号機は22年8月24日、玄海4号機は22年9月13日までに設置する予定だ。
特重施設
特重施設の詳細は安全上公表されていないが、九電の池辺和弘社長は同社本社が入る福岡市内の建物を挙げて「電気ビル二つ分を地下に埋めるくらい」と工事の難しさを例える。24時間体制で前例のない工事に取り組んだ。そして「工程短縮の積み重ね」(池辺社長)が奏功し、10月1日に発電再開の計画の1カ月前倒しを発表。11月11日には国内初の特重施設の運用に至った。1号機の起動はさらに1週間早めた。この1週間の短縮で約5億円のコスト改善につながる計算だ。
「川内原発が動いていれば、もっと黒字になっていただろう」。20年4―9月期決算会見で池辺社長はこう振り返った。しかし影響するのは業績だけではない。二酸化炭素(CO2)排出削減の面でも大きな意味を持つ。九電がまとめた経営ビジョンでは、30年に13年比2600万トンのCO2削減を掲げ、これは九州の削減必要量の70%にあたる。その柱の一つが原子力だ。
地元の同意
カーボンニュートラル実現には新設・リプレースが不可欠との見方もある。ただ池辺社長は「まずは審査の過程や地元同意の段階にある原発を早く再稼働させて、CO2が出ない電気を発電するのが一番」と、再稼働に期待をかける。
電力業界は30年までに低効率石炭火力の休廃止を進め、再生可能エネルギーの大量導入が求められており、ベースロード電源として原発の重みがさらに増す。新規制基準の審査で相次ぎ止まった原発も再稼働に向けて動きだした。18日には、被災地である宮城県の村井嘉浩知事が東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)2号機再稼働への同意を梶山弘志経済産業相に報告。東北電は安全対策工事が完了する22年度にも再稼働する見通しだ。
東京電力ホールディングス(HD)の柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)7号機は新規制基準を合格したが、立地地域の新潟県が「事故原因」「健康と生活への影響」「安全な避難方法」の三つを検証中だ。東電HDの小早川智明社長は「新潟県が三つの検証の答えを出すことが地元の総意。それにしっかり協力する。その結論が出た後で再稼働を相談させて頂く」とする。