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【16日打ち上げ】野口さん、SpaceXのクルードラゴンでいざ出発。科学ミッションを詳細解説

【16日打ち上げ】野口さん、SpaceXのクルードラゴンでいざ出発。科学ミッションを詳細解説

「クルードラゴン」内で野口さん(右端=スペースX提供)

宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙飛行士の野口聡一さんがに宇宙へ飛び立つ。米宇宙企業スペースXの宇宙船「クルードラゴン」初号機に乗り、米航空宇宙局(NASA)ケネディ宇宙センター(フロリダ州)から大型ロケット「ファルコン9」で国際宇宙ステーション(ISS)を目指す。野口さんはISSに約6カ月間滞在し、科学実験などのさまざまなミッションに“全集中”で挑む。(飯田真美子)

ISSに6カ月滞在 米主導で宇宙飛行士輸送

「宇宙飛行士として新型宇宙船に初めて搭乗できることはうれしい。仲間と一緒に明るい未来に向かって“全集中”で頑張りたい」。野口さんは出発直前の記者会見で人気漫画「鬼滅の刃」の台詞を使い意気込みを語った。

世界が新型コロナウイルス感染拡大の影響で混乱する中での打ち上げとなる。宇宙船に搭乗する宇宙飛行士4人は、困難な状況を乗り越えて回復するという意味を込めて、初号機を「レジリエンス号」と名付けた。世界中の人々と思いを一つにして、今回のミッションに臨む。

野口さんらが搭乗するクルードラゴンは、NASAが初めて民間企業に開発を委託した宇宙船。5月には試験機が2人の米宇宙飛行士を乗せてISSに到着し、8月に無事地球に帰還した。今回は野口さんを含め4人の宇宙飛行士が初号機で宇宙に向かう。

現在、宇宙飛行士をISSに輸送する手段はロシアの宇宙船「ソユーズ」のみ。2011年に引退したNASAのスペースシャトルに続く米主導の輸送手段になると期待される。

安全性・高い信頼性実証

「クルードラゴン」を打ち上げるファルコン9(野口さんの公式SNS提供)

スペースシャトルの引退に伴い、NASAは、新型有人宇宙船の開発を民間に委託する「コマーシャルクループログラム(CCP)」を10年に設立。

安全で信頼性や費用対効果の高い米国商業有人宇宙船(USCV)の開発と輸送サービスの調達を目指す。NASAが選定した民間企業に段階的に出資し、開発競争を推進する仕組み。14年までに5回の選考を経て、USCV開発企業にスペースXと米ボーイングの2社を選定した。各社最低1回の有人宇宙試験飛行を実施し、宇宙船の機能や性能、安全性などを実証する。

クルードラゴンは、これまでにISSに20回物資を運んだスペースXの宇宙船「ドラゴン」が基になっている。ISS向けは4人乗りだが最大7人乗れる。小型エンジンを搭載し、ロケットから分離後にエンジンが噴射して自動でISSに結合する。約6カ月間の任務終了後はISSから宇宙船が離れ、大気圏に突入。その後パラシュートを開き、海に着水する手法で地球に帰還する。

3度目のフライト 怖さ・不安よりも挑戦

チャンバ内で訓練する野口さん(JAXA/NASA提供)

野口さんは、これまで05年にスペースシャトル、09年にソユーズに搭乗した。今回3回目のフライトで3種類目の宇宙船への挑戦となる。宇宙船で地球帰還時の着地方法がそれぞれ異なる。スペースシャトルではケネディ宇宙センターのコンクリート滑走路に着地し、ソユーズはカザフスタンの砂漠地帯に降り立った。今回は海に着水し3回の飛行で3種類の着地方法を世界で初めて経験する。野口さんは「新型宇宙船の初号機の搭乗メンバーは4人中3人がNASAの宇宙飛行士。JAXAがそこに日本人宇宙飛行士を送り込んだことは光栄なこと」と語る。

3種類目となる宇宙船クルードラゴンは民間初で、しかも初号機だ。新型機に初めて乗ることに不安を抱くものだが、野口さんは「怖さや不安よりも、挑戦することで新たな利益が得られる喜びの方が上回る。新しい挑戦をすることで新しい発展や明日への希望が得られる。それが自分が挑戦を続ける意味だろう」と真剣なまなざしを見せる。

「55歳で船外活動成功したい」

野口さんは今年55歳になった。若手宇宙飛行士が増える中、ベテランとして今回のミッションに挑む。若手に負けないように日々の訓練に臨んでいる。「若い世代と一緒に活動すると、体力的にも素早く状況判断する認知能力の衰えを感じる時がある。経験でごまかしつつ、若手と一緒に最後まで張り合いたい」と意気込む。

今回、ISSの船外で行われるミッションも含まれている。船外活動は体力を消耗し、一番厳しいミッションとして知られている。

野口さんは「55歳で船外ミッションを達成することを実現したい」と歳を感じさせない笑顔で語った。

ISS船外活動に関する訓練を行う野口さん(JAXA/NASA提供)

今回の目玉は… 宇宙で燃焼/iPS細胞培養

ISS(JAXA/NASA提供)

野口さんらはISS到着後、約6カ月間宇宙空間に滞在しさまざまなミッションを行う。以前からの内容に加え今回の目玉は宇宙空間での燃焼実験とiPS細胞(人工多能性幹細胞)の培養実験だ。燃焼実験では、固体材料を宇宙空間で燃やし、地球上で燃焼した時と比べてどう変化するかを明らかにする。宇宙空間での材料燃焼評価の国際基準作成を目指す。

ISSの日本実験棟「きぼう」にある固体燃焼実験装置を使い、燃焼しやすいアクリル、ポリエチレンや宇宙船内で使われる難燃性材料など、さまざまな材質・形状の材料を燃焼する。燃焼する様子を観察し、酸素濃度や流速などを調べる。固体材料が燃焼する時の重力の影響が分かるとともに、有人宇宙探査が盛んになった時に重要な宇宙での火災安全技術の高度化につながる。

iPS細胞の培養実験では、大血管の周りにiPS細胞を付与して立体的な臓器を作ることを目指す。宇宙空間は沈降や対流などがなく細胞が生体内に近い状態であり、地球上よりも培養実験しやすい環境にある。

ヒト由来の肝臓の基となるiPS細胞と血管に似た構造体と共に封じ込め、きぼう内で培養する。その後、地球上で成長の違いなどを比較して重力が臓器成長に与える影響を解析。今回は大血管の周りにiPS細胞が凝集することを確認する。これらに加え、たんぱく質の結晶化技術実証や超小型衛星の放出ミッションなどを行う。また、東日本大震災から10年を迎えるにあたり被災地に向けてメッセージを送る予定。

日刊工業新聞2020年11月13日

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