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隈研吾の「角川武蔵野ミュージアム」は木と石の“超建築”

雑誌『工業材料』11月号 スペシャルレポート
隈研吾の「角川武蔵野ミュージアム」は木と石の“超建築”

写真1 所沢市にオープンする角川武蔵野ミュージアム ドローンによる俯瞰写真(提供:角川文化振興財団)

 石と木。人類にとって最も長い歴史を持つ素材を使った複合文化ミュージアムが、埼玉県所沢市の「ところざわサクラタウン」内に誕生する。国立競技場の設計に携わった隈研吾氏がデザインした「角川武蔵野ミュージアム」(写真1)だ。
 外壁は石、ミュージアムの目玉となる図書館は木が主素材となっている。「(石と木の)二つの素材が持つ自然のエネルギーを引き出すことで、人が素材に対して身近に感じる感覚であるごつごつ感、ざらざら感をふんだんに持たせている」(隈氏)。大地から沸き起こるマグマが固まったような外見、そして、11月6日にオープンする「連想」を表現したという図書館の内部は、まさに型破りの発想を具現化した建築物で、ハイアートからポップカルチャーまで多角的な文化発信拠点になるだろう。

大地のエネルギーを石で表現

角川武蔵野ミュージアムはKADOKAWAが所沢市と共同で取り組んでいる「COOL JAPANFOREST」構想の一環。美術館、博物館、図書館の3館が融合する複合文化ミュージアム。主宰者によれば、イマジネーションを連想させながら、リアルとバーチャルを行き来することを狙いに作られている。館長で編集工学者の松岡正剛氏、博物学者の荒俣宏氏、芸術学・美術教育研究者の神野真吾氏、そして建築家の隈研吾氏が運営の柱として参画している。
 隈研吾氏は「関東ローム層で覆われ、作物が育ちにくい武蔵野を緑溢れる大地に変えた人の力、土地のエネルギーを形にする」ことを主眼にミュージアムの設計を行った。大地が隆起した建築物を作るために選ばれたのが石。幅700mm、高さ500mmの中国・山東省の花崗岩2万枚、1200トンが岩の塊のような外壁に使われた。「この花崗岩は黒い部分と白い部分がうねるように入り混じって力強く、加工した際に、より強いうねりが出て、ごつごつした印象がある」(隈氏)。「マグマが地表に噴出してくるようなイメージを表現するため」には最適の素材だった。

隈研吾氏

隈氏はこの素材にさらに技巧を加えて、花崗岩の持つ力強さを浮き立たせている。職人がノミで叩いて凹凸を出す割れ肌仕上げを採用した。一般的に、外壁には平坦に加工された3cmの厚さの石が用いられるが、ここでは7cmセンチの厚みの石の表面を叩き割り、最も薄いところでは3cmの厚みとしている。4cmの厚みのなかでの凹凸が、印象的な陰影を与えている。さらに通常は隣り合う石同士の目地を揃えるが構成が、これまでの石の建築であったが、あえて段差をつけたままとすることで、荒さをそのまま残している。目地を合わせると「1枚ずつの独立性が失われ、巨大な一つの面に見えてしまう」(隈研吾建築都市設計事務所 渡辺傑パートナー)。隈氏も「あえて目地を整えず、そのまま仕上げることで石の持つ力を引き出している」と言う。それにより、外から見ると、あたかも「動いているかのような感覚になる」(隈氏)新しい石の建築物となっている。
 1200トンもの重量を支えるには耐震性も高いものが要求される。一般部を鉄骨造としているが外周をSRC造とすることで、揺れに対する強度を高めるとともに、止水性能も高めている。

圧巻、本棚劇場粗い木目のカラマツ合板が活躍

建物は5階建て。1階にはグランドギャラリー、マンガ・ラノベ図書館、3階にはEJ(エンターテイメントジャパン)アニメミュージアムなどがある。4、5階には図書館、美術館、博物館の3館融合施設が配置されている。中心部に現代アートを展示する美術館があり、それを囲むように図書館、さらにその外周に博物館が配置される。ここにはコンセプトが2つの異なる図書館がある。図書館長を務める松岡正剛氏の監修によるもので、本棚劇場(写真2)と名付けられた図書館は建物の4、5階を貫き、360°全てを約8mの巨大書架に囲まれた空間。KADOKAWAの創業者の角川源義のほか、山本健吾、竹内理三、外間守喜、山田風太郎など、研究者、作家の個人蔵書を含めて合計5万冊の蔵書から3万冊が開架される。

写真 2 カラマツ積層合板が作り出す空間 本棚劇場

もう一つの図書館「エディットタウン」は本の息遣いや賑わいが感じられる“街”のような図書空間を目指す。松岡正剛氏が設定した世界を読み解く「9つの文脈」に沿って約2万5,000冊が並ぶ。二つの図書館とも本棚に段差がある。この通常とは違う本棚の構造を、「情報には起伏があり、つながっている。それは人間の脳の構造と同じ」と隈氏は説明する。

本棚の素材にはカラマツの積層合板が使われている。外壁同様のざらざらした質感や、積層による厚みの表現を想起させるため、隈氏はカラマツの持つ木目や節の強さに着眼した。「今回作ろうとした本棚は、本のように文脈が場所へと繋がっていくイメージ。合板の断面に出てくる積層の水平性は、その繋がるイメージをより強いものにした」と渡辺氏も説明する。8mの吹き抜けの本棚劇場では、本棚が徐々に天井に消えていくような動きある空間を、カラマツ合板を用いることで展開している。
 天井から吊られる板の長さを少しずつ変えていくことで、奥行きがでるよう設計されており、カラマツ合板はこれらの特徴に対して、木目や積層断面の見た目、手触り、加工性など最適の素材だったようだ。

ミュージアムのオープンに先立ち、『隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生−石と木の超建築』と名付けられた企画展が開催された。人類が最もなじみのある石と木という自然素材を用いたこれまでの隈氏の建築が、竣工と同時にKADOKAWAより出版された『東京 TOKYO』と連動する形で展示されていた。
(ジャーナリスト 松岡 克守)

雑誌紹介

雑誌名:工業材料 2020年11月号
 判型:B5判
 税込み価格:1,540円

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内容紹介

工業材料 2020年11月号  Vol.68 No.11
特集「JASIS2020から探る分析・評価・計測技術の最前線」
 最先端の科学・分析機器とそのソリューションの展示会「JASIS (ジャシス)2020」が11月11日(水)~13日(金)の3日間、千葉県の幕張メッセで開催される。今回は新型コロナウイルスの影響で規模を縮小することとなったが、同時開催されるWeb展示会の企画を充実させることで、従来と同様の情報発信力を維持する。
  本特集では、主要企画の一つとして毎回高い評価を得ている「オープンソリューションフォーラム(OSF)」の基調講演と出展企業発表の一部を開催に先駆けて紹介する。OSFでは毎年、「環境」「食品」「材料」の各分野から注目度の高いテーマを選定しており、今年は「マイクロプラスチック」「発酵食品」「軽量化材料」を取り上げる。

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